桜姫

角川文庫

近藤 史恵

2008年2月23日

KADOKAWA

565円(税込)

小説・エッセイ / 文庫

十五年前、大物歌舞伎役者の跡取り息子として将来を期待されていた少年・音也が幼くして死亡した。それ以降、音也の妹・笙子は、自らの手で兄を絞め殺す悪夢を見るようになる。自分が兄を殺したのではないだろうか?誰にも言えない疑惑を抱えて成長した笙子の前に、音也の親友だったという若手歌舞伎役者・中村銀京が現れた。二人は音也の死の真相を探ろうと決意するがー。封印された過去の記憶をめぐる、痛切な恋愛ミステリー。

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3.2 2018年02月09日

このシリーズ、好きです。幻想的で魅惑的な雰囲気が良いんです。能にしても歌舞伎にしても男性のみが演じる芸能には、どうしても半陰陽的なイメージが付きまといます。それが妖しさや色気、華やかさの源泉にもなっているんでしょうね。それにしても小説家の想像力には、恐れ入れます。半陰陽からこれだけのミステリーを構築してしまうのですからね。しかも伽羅先代萩と桜姫東文章のふたつの歌舞伎演目を絡ませて作品に深みを増しているんですから、脱帽です。 大部屋役者・瀬川小菊と命題歌舞伎役者・市村朔二郎の娘・笙子が章ごとに交互に「わたし」という一人称で語っていきます。その笙子に、若手女形役者・中村銀京が近づいてきます。死んだ笙子の兄・音也の幼馴染でした。音也が死んだ日から数日後の日付が入った写真を見せるのでした。そこには銀京と音也が仲好く写っていました。ここで謎がひとつ発生します。ところで、笙子は長い間、兄・音也を殺す悪夢に悩まされてきました。一方で、笙子は銀京とたちまち恋に落ちると同時に、彼と兄の死の真相を知るために動き始めるのでした。ところが、父の朔二郎はそれを許しません。一門で、笙子の従兄弟・月之助も、なかば力づくで笙子と銀京の間を裂こうとします。音也の死には重大な秘密があるようです。 笙子が抱える謎を集約すると、つぎのようになります。なぜ父は私を愛してくれなかったのか、兄が死んでから引き取られたにもかかわらず、私が兄のことを覚えているのは何故か、母と父の中が壊れていったのは何故か、母が私のことを兄の名で読んだのは何故か。 一方、伽羅先代萩で千松役を務めた少年が終演後、劇場地下の大道具部屋で不審な死を遂げます。先代萩は、伊達騒動を鎌倉時代に託して描いた歌舞伎演目です。忠義の乳母・政岡とその子・千松のお話です。伊達家世継ぎの鶴千代と千松は腹をすかせ、政岡は茶道具を使って飯焚きを始めます。そこに逆臣方の管領・山名宗全の奥方・栄御前が現われ、持参の菓子を鶴千代の前に差し出します。毒入りを危惧した政岡でしたが、管領家の手前制止しきれず苦慮していたところ、駆け込んで来た千松が菓子を手づかみで食べ、毒にあたるというお話です。実は千松役の男の子の母親と月之助は愛し合っていたのです。この恋を成就させるのに最大の障害になっていたのが、少年の存在でした。そのことを知っていた少年は、喘息発作を招来しかねない風邪薬を自ら服用したのでした。自分が必要とされているかどうかをこうして確かめたのでした。 このように見てくると、この小説は自己喪失をテーマに書かれたように感じます。みずからのアイデンティティーを失えば、たとえ少年といえども生命そのものを失うという厳しさですね。また、人間生命の不可思議さは、笙子にあっては過去を失って生き延びる道を選びました。 最後に、笙子の戸籍はどうやって取得したのだろうか、との疑問が残りました。この説明がなくても、ミステリーとしては瑕疵にならないんですかね。

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