サウスバウンド 下

角川文庫

奥田 英朗

2007年8月31日

KADOKAWA

565円(税込)

小説・エッセイ / 文庫

元過激派の父は、どうやら国が嫌いらしい。税金など払わない、無理して学校に行く必要なんかないとかよく言っている。そんな父の考えなのか、僕たち家族は東京の家を捨てて、南の島に移住することになってしまった。行き着いた先は沖縄の西表島。案の定、父はここでも大騒動をひき起こして…。-型破りな父に翻弄される家族を、少年の視点から描いた、新時代の大傑作ビルドゥングスロマン、完結編。

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うちの家族は変わってる

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4.1 2021年12月23日

うちの家族はちょっとヘンだ】 小学六年生になった長男である僕の名前は二郎。父の名前は一郎。 誰が聞いてもその名づけ方は変わってるって言う。 父が会社員だったことはない。 物心ついたころからたいてい家にいた。 父親とはそういうものだ、と思っていたら、 よその家はそうでないことを小学生になって知った。 父は元過激派で、今でも騒動ばかり起こす。 が、普通なはずの母も元過激派だったんだ。 うちの家族はちょっとヘンだ。 訂正。 うちの家族はかなり変わってる。 子どもでいることは本当に損だ。 外を出歩くにも、いちいち制限がかかる。 学校がある時間帯や深夜の時間帯、街中を歩いていたら補導されてしまう。 家出をしようにもすぐ引き戻される。 子どもであるが故、僕が決死の覚悟でやった家出は数時間で終わった。 【誰が決めたんだ、子どもは学校へ行けって】 父が言った。 日本は義務が多すぎる。義務教育なんていい迷惑だ。 日本人だからといって、なぜ国に属さねばならないのか。 税金なんてくそくらえ。年金なんて払う義務などない。 東京で騒動をおこした父のせいで、東京を追われることになった僕ら。 ある朝、母が僕らに言った。 「我が家は、沖縄の西表島に引っ越すことにしました」と。 「あなたたちは永遠に親のものではないので、自立できると判断した時点でひとり立ちしても構いません。ただ、十五歳までは一緒にくらしましょう。だから、今現在の友達とは、いったんお別れです」と。 その二日後には家財道具一切合切処分して、スーツケース三つだけで家族四人(父・母・僕・妹)西表島に立っていた。 空が青かった。 海の色が一色じゃなかった。 沖縄の人は優しかった。分け与える精神が自然と根付いていた。 だから暮らしには困らなかった。 世間はなんて小さいんだ。 世間は歴史も作らないし、人も救わない。 正義でもないし、基準ではない。 世間なんて戦わない人を慰めるだけのものだ。 相変わらずハチャメチャな親だけれど。 今度は何をしでかすのかとハラハラするけれど。 ここにきてよかった。 そう思えた。 パパとママの間に生まれてきてよかった。 自然と思えたんだ。

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Readeeユーザー

(無題)

-- 2018年01月24日

藤沢市の高級住宅街として知られる鵠沼は、小田急江ノ島線開通後に小田急が最低100坪単位で分譲した住宅地です。それ以前の明治から昭和にかけては文人墨客の別荘地でした。ですからこの地域は、文化的雰囲気と湘南海岸のもつリゾートの二重のイメージで形作られているのですね。そんな鵠沼から由比ヶ浜高校に通学するには、江ノ電を利用するのが便利です。櫛森秀一も雨の日はそうしますが、普段は潮風が気持ち良い海岸沿いの134号線をロードレーサーで疾走します。つまり、おしゃれで大人びた17歳の高校生のイメージが冒頭から綴られるのです。しかし少し読み進めると、湘南海岸のカラッとした雰囲気とは裏腹に完全犯罪の暗い影がちらつくのです。 鵠沼でも今時は敷地100坪以上の家は多くありません。代替わりした時に相続税が納められなかったり、処分された土地は二分割、三分割されて建売住宅として売り出されるからです。秀一が住む家は祖父の所有になるものでした。父親が交通事故で死んでから、美大出の感性豊かな母親と大正生まれの厳格な祖父のと間は決して良好ではありませんでした。むしろ、義父の目の届かない所に逃げ出したくて再婚を急いだのでした。ところが、相手の目先の優しさに目を奪われた再婚は大失敗でした。母の再婚相手、秀一の義父は怠け者で酒乱、しかもギャンブル狂で女癖も悪い男だったのです。母・友子が離婚を勝ち得たのは、鵠沼の家に逃げ込み祖父がまとまった金をこの男に支払ったからだったのです。 それから10年もして現れたのです。忌まわしき曾根隆司。何故か祖父母亡き後の櫛森家に居座り、傍若無人に振舞う曾根。もう夫でもない曾根に毅然とした態度をとれない母・友子でした。実は秀一の妹・遥香は曾根の連れ子だったのです。母はその事を秀一と遥香に知られまいと、曾根の言うなりになっていたのです。秀一の怒りは天をつき、火焔は赤から青へと変化し一層温度を上げたのでした。母と妹を守るために、彼は曾根の殺害を計画し始めるのでした。 神奈川県の名門湘南高校を思わせる由比ヶ浜高校に通う秀才が企む完全犯罪とは、どのようなものなのでしょうか。綿密な計画を立てて、とてつもない緊張感の中で犯行が行われ、その後に心理的葛藤があり、警察が迫って来るというスリリングな展開です。この小説は完全犯罪を追ったミステリーでもありますし、秀一と紀子の織りなす青春小説でもありますし、大人になりきらない少年の純粋であるがゆえの哀しい物語でもあります。大変に読み応えがありました。

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