愛の空間 男と女はどこで結ばれてきたのか

角川ソフィア文庫

井上 章一

2015年10月24日

KADOKAWA

1,232円(税込)

人文・思想・社会 / 文庫

終戦直後、皇居前広場は巨大な野外性愛空間だった!?かつてカップルは愛し合う物陰を探して東京中を徘徊していた。しかし、待合、ソバ屋、円宿、ラブホテルなどの施設が誕生し、日本独特の意匠をこらした空間で結ばれるようになる。性行為専用の空間を持ち、趣向を求めるのは日本だけに見られる現象である。なぜ屋内を好み、意匠にこだわるようになったのか。日本人の男女が愛し合う場所の変遷を辿る、性愛空間の文化史。

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Readeeユーザー

(無題)

-- 2018年01月20日

本書は建築史を専門にする学者のラブホテル論である。かつて、ラブホテルの意匠は実に奇抜で人々の度肝を抜いたものだった。建物のデザインのみか、設備面でも当時の週刊誌に恰好の話題を提供したものだった。そんな週刊誌を読んで「一度目黒エンペラー」に行ってみようか、との思いを抱いたご同輩も多いのでは。一言で言えば、俗悪趣味に尽きるのだが、世界中探しても他に類を見ない日本独特のラブホテルを作り出した日本人の精神性はどこにあるのか、こんな疑問をキッカケに研究テーマを決める学者の素朴さは好もしい。学者の書いたものだから、味も素っ気とない学術論文に似たものかというと、そんなことは全くなく、普通の人が楽しく読むことができる。 人々はどこでセックスしてきたか?。それは野外であった。本書は戦後の皇居前広場で夜毎繰り広げられる恋人達の振る舞いを描写するところから書き始めている。野外でのセックスなんて今の人は信じられないだろうが、これは戦後の劣悪な住宅事情が原因とばかりは言えない。時は下って僕の青春時代でもまだ、日比谷公園や新宿中央公園は恋人達のメッカと言われたものだった。では、寒くなったらどうしたのだろかとの疑問は当然である。蕎麦屋やお汁粉屋の二階がそのために供されたのだそうだ。 現代のカップルには「ラブホ」が1番ぴったりする言葉であろうが、往年のアベック世代では「連れ込み宿」なんて言葉があった。この本を読むまで女性を連れ込むので、名付けられたと思っていたが、全く逆であった。戦後、街娼が男に声をかけ、商談成立すると客を連れ込むのでこう呼ばれたのだそうだ。 時代小説を読むと「船宿」や「出会い茶屋」が登場する。これらは江戸時代に恋人や不倫カップルのために場所を提供する商売だった。昭和初期になると「円宿」が登場する。宿泊2円、休憩1円の料金体系が大変な評判を呼んだそうだ。どうやらここらがラブホテルの原型と言えそうだ。 三業地と聞いても大方は何のことかわからないだろう。それでは花街あるいは花柳界ならどうであろうか。何となく芸者の匂いが漂ってくれば正解である。三業とは芸妓置屋、料理屋、そして待合の3業種である。待合は貸席、いわば場所だけ提供し、料理屋から料理を取り寄せ、芸妓を呼ぶ分業システムだったのである。遊び慣れた裕福な男は、この待合を密会に使うこともあったようだが、恋人同士が気楽に使うには敷居が高かったようだ。むしろ芸者を買うところ、売春の場として定着していたのだ。無論、芸は売るけれど身体は売らないと、プライドの高い芸妓もいた。その一方で、お座敷に三味線を持参しない不見転芸者がいたのも事実である。 この辺りから、著者の興味は素人のセックスから玄人の売春、あるいは男の遊び・欲望へと移っていく。これが本書の本線、ラブホの謎を解き明かす伏線となるからだ。かつてのラブホテルはアベックが人目を忍んで訪れる場所なのに、なぜかギラギラで派手な外観をしていた。中に足を踏み入れれば、怪しげな照明に浮かび上がる巨大なベッド。アダルトグッズはもちろん、マッサージチェアやジャグジーといったリラックス用設備、カラオケやゲーム機などのアミューズメント機器までが完備していた。これは利用者のニーズに応えたものではなく、実はオーナーの趣味であったことが徐々に明らかになっていく。 ところで、現代のカップルはそんな下品さを嫌ってシティホテルに流れているそうだが、随分とお金持ちになったものだ。

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