
雨の裾
古井 由吉
2015年6月11日
講談社
1,870円(税込)
小説・エッセイ
老境にさしかかった男の、つれづれに蘇る遠い日々の記憶。うつつの中の女の面影、逝ってしまった人たちの最期のとき。過去と現在を往還しながら、老いと死の影を色濃くたたえる生のありかたを圧倒的な密度で描く、古井文学の到達点。 噪がしい徒然 若いころ熱心に読んだ本を読み返す男。文字を追う眼に映る、暮れかけた路地から庭をのぞきこむ人影。 踏切り 踏切は暗かった──。警報器が鳴り出したとき、前のほうにただならぬものを目にした。男の背後に忍び寄り、いきなり抱き止めた。 春の坂道 坂道をよたよとと、杖にでもすがるようにのぼっていると、うしろからぞろぞろと若いのがついてくる。俺のうしろに以前の俺が続く。その以前の俺のうしろからそのまた以前の俺が続く。 夜明けの枕 三十をすぎて司法試験を目指した男。アパートにこもり、一緒に暮らす女が働きに出て生活を支えた。 ほか全8篇 躁がしい徒然 死者の眠りに 踏切り 春の坂道 夜明けの枕 雨の裾 虫の音寒き 冬至まで
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