皆月
講談社文庫
花村萬月
2000年2月15日
講談社
691円(税込)
小説・エッセイ / 文庫
諏訪徳雄は、コンピュータおたくの四十男。ある日突然、妻の沙夜子がコツコツ貯めた一千万円の貯金とともに蒸発してしまった。人生に躓き挫折した夫、妻も仕事も金も希望も、すべて失った中年男を救うのは、ヤクザ者の義弟とソープ嬢!?胸を打ち、魂を震わせる「再生」の物語。吉川英治文学新人賞受賞作品。
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(無題)
アウトローの世界を通して人間 の本質を描かせたらこの人にかなう人はいないでしょう。花村萬月の世界は人間の織りなす社会を唾棄していながら、真実を描きあげています。主人公は、パソコンで橋梁の構造計算を行う設計技術者の諏訪徳雄です。「みんな、月でした。がまんの限界です。さようなら 沙夜子」と、妻が書き置きを残して突然失踪します。妻の失踪を機に妻の弟、アウトローのアキラを頼って裏社会へとドロップアウトします。アキラの紹介で行ったソープランドで由美と知り合います。2人はすぐに同居する仲になります。そして、諏訪徳雄と由美は、アキラと共に3人で沙夜子を捜す旅に出ます。 突然の妻の失踪、その理由はいまひとつ判然としません。石川県の皆月という地名が本の題名にもなっています。沙夜子が一緒に失踪した相手、チンピラの高岡の故郷が能登半島皆月でした。この地名がこの作品の主要なテーマである「みんな、月」につながります。「みんな、月」は、「わたしも、あなたも、アキラも、あのころわたしのまわりにいた人間は、みんなお月様だった。自分では光ることができず、他人の光を反射するのがやっと」と、沙夜子は言います。 花村萬月の作品、当然のことながら、暴力とセックスが執拗に描かれています。花村萬月の性模写は圧倒的なエネルギーに満ちています。著者の根源的欲望を表現しているから、生々しいのですが、下劣ではありません。本作品の構成は素晴らしく見事なストーリーテーラーです。
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