プリズン・トリック

講談社文庫

遠藤 武文

2012年1月31日

講談社

733円(税込)

小説・エッセイ

市原の交通刑務所内で、受刑者石塚が殺され、同所内の宮崎が逃亡。遺体は奇妙にも“前へ倣え”の姿勢をとっていた。完全な密室で起きた事件は、安曇野を舞台にした政治汚職にまで波及していく。単行本未収録の“ある人物からの手紙”を収めた最強のトリックミステリーを、早くも文庫化!第55回江戸川乱歩賞受賞作。

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-- 2019年12月13日

遠藤武文「プリズン・トリック」

本書は、今年度江戸川乱歩賞を受賞した作品です。選考委員の多くが「志が高い」と言い、欠陥だらけだったにも関わらず受賞に至ったという作品です。 舞台は市原にある交通刑務所です。交通事故などで刑が確定した受刑者を収容する刑務所で、一般刑務所と比べ警備や監視などの点において幾分緩いという特徴があるようです。もちろんそうは言っても、そこで薬品を使った殺人事件が起こっていいほど、緩やかなわけがありません。 ある日、朝の点検に際し、受刑者の一人の行方が分からないことが判明した。行方が分からなくなっていた受刑者は、何故か隣の舎房の倉庫で見つかった。臭化パンクロニウムという、俗に言う筋弛緩剤を投与され、顔と手に濃硫酸がかけられていた。臭化パンクロニウムも濃硫酸も、刑務所に在庫があるものではない。ドアの内側には、「石塚、死すべし。 宮崎」と書かれた模造紙が貼られていた。倉庫の窓には網戸が貼られていたが、それが破かれていなかった。舎房全体が密室だったことになる。 刑務所内で、刑務所内には存在しない薬品によって、しかも密村状況下で行われたありうるはずのない殺人事件。警察は捜査を開始するも、早々に行き詰まる。犯人はどこかに逃走したはずの受刑者の一人のはずなのに、なんと加害者が誰なのか特定できないのだ…。 というような話です。 新人の作品らしく、あちこち粗が目立つ作品ではありますけど、ただ選考委員が「志が高い」と評した理由は分かりました。刑務所内での密室殺人、というとんでもない謎は、作品の粗を見なかったことにしてもいいか、と思えるほどなかなかインパクトのあるものでした。しかも、衝撃はそれだけに留まらない。捜査が進むにつれどんどんと意外な事実が明らかになっていくし、どんどんと奇妙なことが展開されていく。物語は、まとまりがつかなくて発散しそうな気配を何度も漂わせながら、それでもなんとか強引に最後まで持っていき、謎解きまで行くことになります。最後の最後に仕掛けたヤツはさすがにやりすぎな気はするんだけど、まあ全体としては起伏が激しいし展開も面白いし、ここ最近の乱歩賞の中では、「天使のナイフ」や「13階段」と比較したらもちろん落ちるけど、それでもそれらの作品の少し下辺り、というぐらいの評価でもいいかもしれません。なかなか面白い作品だと思いました(ちなみにですが、ここ最近の乱歩賞で読んでるのは、「13階段」「滅びのモノクローム」「カタコンベ」「天使のナイフ」「三年坂 火の夢」です)。 欠点としては、やはり選評でも多くの作家が挙げているように、視点人物が多すぎるということです。これは確かにもう少しまとめるべきだと思いました。たぶん、作品の中にいろんな要素を詰め込みすぎたからだと思うけど(天童荒太氏は選評で、応募原稿はどれも規定枚数ギリギリのものばかりだったけど、そんなに枚数を必要としない作品ばかりだったように思う、というようなことを書いています)、そのせいで多くの人間を視点人物にする必要があったのだろうと思います。もう少しストーリーを絞って、視点人物を絞り込めば(理想としては、三人ぐらいの視点が交互に繰り返される、みたいな構成だといい)、もっとよかったのではないかなと思います。 選評では、中盤が穴だらけ、というようなことが多く書かれているんだけど、読んでてそこまで酷いとは思わなかったので、恐らくその辺りの部分は書きなおしたのでしょう。 読めば新人の作品だな、ということが伝わる作品で、かなり荒削りな部分はあるんだけど、キャラクターもそれなりにきちんと描けていたと思うし、全体に勢いがあると感じました。乱歩賞など昔からある新人賞ではよく、これから書ける作家かどうか、という部分まで含めて新人賞を選ぶんだけど、確かにこの作家は、これからも書ける作家ではないかなと思いました。本書は、刑務所内での密室殺人という実に本格ミステリっぽい作品でありながら、実に乱歩賞らしい作品に仕上げていて、頑張ったなと思います(って偉そうですけどね 笑)。 というわけで、いろいろと評価は分かれる作品でしょうが、僕はアリだと思います。やはりこれぐらい壮大な謎を考え、多少強引ではあってもそれをきちんと最後までまとめるというのはかなり評価できると思います。これからも頑張ってほしいものです。好き嫌いがかなり割れそうなので易々と勧められないですけど、是非読んでみてください。 あと本作とは全然関係ないんですけど、選評でほとんどの作家に高評価だった「二度目の満月」という作品を読んでみたいですね。恐らく、乱歩賞じゃなければ受賞したのではないかな、と選評を読んでて感じました。

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