量子力学の哲学ーー非実在性・非局所性・粒子と波の二重性

講談社現代新書

森田 邦久

2011年9月16日

講談社

814円(税込)

科学・技術 / 新書

世界の描き方はひとつではない!?コペンハーゲン解釈、多世界解釈、逆向き因果…知的刺激にあふれる科学哲学の入門書。

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-- 2019年12月27日

森田邦久「量子力学の哲学」

本書は、物理学における一分野である『量子力学』というものについての本です。 なんですけど、これ、普通の『量子力学』の本ではないんですね。僕はこれでも、これまでにかなり『量子力学』についての本を読んできたと思うんですけど、それらの作品とはかなり一線を画す、結構斬新な内容だなと思いました。 本書は、『量子力学という物理法則をいかに解釈するか』という、『哲学』の問題を扱っている作品です。 これを説明するために、飛行機の例を出そうと思います。 詳しいことは知らないんですけど、僕のうろ覚えの知識によれば、『なぜ飛行機は空を飛ぶことが出来るのか?』というのは、物理的に解明されていないんだそうです。つまり、どんな理屈によって、飛行機が空を飛んでいるのかわからないまま、ということだ。 飛行機が飛ぶメカニズムについては、いくつかの仮説(と書くのが一番しっくり来るのだけど、以下では用語を合わせる方がわかりやすいと思うから、解釈、と書きます)が提唱されているそうです。しかし、どの解釈も、実験などによって正しさが証明されているわけではない。飛行機が飛ぶメカニズムはいくつか解釈が存在するのだけど、どれが正しいのかはっきりしていない(あるいはすべて間違っていて、まだ提唱されていないメカニズムによる、という可能性もある)のである。 しかし、飛行機が空を飛んでいる、というのは紛れも無い事実である。『飛行機が空を飛ぶメカニズムが分からない』からと言って、『飛行機が空を飛ぶ』という事実が間違っている、なんていうことにはならない。 量子力学も、今これとまったく同じ状況下にある、と思ってもらえばいい。 量子力学という理論は、ここでは詳しく書かないけど(簡単に書けるほど易しい理論ではない)、とにかくあらゆる実験によって、その正しさが認められている。もしかしたら、理論に多少の修正が必要な可能性はあるけど、量子力学という枠組みは、もはや『間違っている』とは到底言えないほど、大成功を収めている凄い理論なのだ。なにせ、量子力学がなければテレビだって作れないのだよ、諸君!(詳しいことは僕も知らないけど) この、『量子力学があらゆる実験によって正しさが認められている』ということは、先の飛行機の喩えで言えば、『飛行機が空を飛んでいることは紛れも無い事実だ』という部分に相当する。 さてでは、量子力学のどんな点に問題があるのだろうか?実は量子力学には、「物理量の非実在性」「非局所性」「状態の収縮」「粒子と波の二重性」という、どう解釈したらいいのか分からない四つの問題があるのだ。 これらそれぞれについて分かりやすく説明することは僕には不可能なので、具体的に説明することは止めます。ざっくり書くと、「物理量の非実在性」というのは、測定する前にも粒子(の物理量)は存在しているのかどうか(なんと物理学では今、原子や電子などが『実在するか否か』ということが議論されているのだよ。凄くないかい)。「非局所性」というのは、ある出来事が空間的に充分離れた出来事に(相対性理論に反して)瞬間的に伝わるか否かということ。「状態の収縮」というのは、これは説明が難しいから却下。「粒子と波の二重性」というのは、ミクロな物質は粒子なのかあるいは波なのか、あるいはその両方なのか、という問題である。まあこんな風に書いてもよくわからんと思うのだけど、とにかく量子力学の世界(ミクロな世界)においては、『マクロな世界の常識(僕らが通常生活をしている世界の常識)』に明らかに反するような様々な実験結果が存在するのだ。 これら、マクロな世界の常識に反する(あるいは、反するように見える、と表現するべきなのか)様々な実験結果を、どのように解釈するのか。本書は、その様々な解釈に触れた作品、という感じです。 難しいですよね。僕も、本書を読まないままで、自分が書いたここまでの文章を読んでも、よくわからないと思いますもん。でも、こんな風に書くしかないんだよなぁ。 普通の量子力学の本というのはどういう感じになるかというと、量子力学がどんな経緯で誕生し、どう発展していったのか、という歴史を追うものであったり、あるいは、量子力学の様々な不可思議な実験結果を羅列して、ほら量子力学って不思議でしょう?ということを示すものであったり、あるいは本書のような『解釈』の話であれば、『多世界解釈』がちょっと紹介される、というぐらいが関の山です。『多世界解釈』は、量子力学における解釈の中でおそらくもっとも有名なもので、僕らが生きているこの世界は、パラレルワールドとか並行世界が山ほど重なり合っている状態なのだ、と解釈することで、上記四つの問題をどうにかいい按配に解釈しようとしているもので、標準解釈(量子力学には、そう呼ばれる、一般的にこれが標準とされている解釈、というものがある)よりも支持者が多い、と本書では書かれています。 普通ごく一般的な量子力学の本はそういう感じになるのだけど、本書は、量子力学における様々な『解釈』を紹介することを最大限念頭においた作品で、今まで僕はこんな作品を読んだことがありませんでした。量子力学についての一般向けの本を結構読んでる僕は、当然『多世界解釈』は知ってたし、上記の四つの問題についてもざっくりとは理解していた。『軌跡解釈』ってのも、たぶんどこかで読んだことがあったんじゃないかなぁ、と思います。でも本書には、僕が今までまったく知らなかった話が山ほど出てくる。おそらく本書では、現時点で提唱されている解釈のほとんどすべてを網羅しているんだと思うんだけど、僕はそのほとんどを知らなかった。『多世界解釈』も、初めてその存在を知った時は、なんて斬新なアイデアなんだ!と思ったものだけど、本書で紹介されている他の解釈も、相当に斬新だった(ただ、僕には理解出来ないものもいくつかあった。結構難しいのよ、本書は)。 それに、知らなかったのは解釈についての知識だけではない。例えば、『観測問題』と呼ばれる問題が量子力学には存在する。これは、『なぜ、ミクロな物質は明確な位置にないのに、マクロな物質は常に明確な位置にあるのか』という問題で、これは初めて知った。他にも、固有の名前はついていなくても、こういう発想・知識は初めて知ったなぁ、というものが実に多かった。 本書は帯に『~の入門書』って書かれてあるんだけど、マジこれ、まったく入門書じゃないと思います。僕はPOPに、『ある程度量子力学についての知識がある人が読んだらハチャメチャに楽しめる作品です!』って書くつもりでいます。そう書くと、読者を狭めちゃうけど、でも、入門書だと思って本書を買って読んだら、たぶん意味わかんないと思うんです。自分でいうのもなんだけど、量子力学についての一般向けの本をかなり読んでいる僕でも、イマイチついていけないなぁ、と思うような部分があったぐらいです。かなりレベルが高いです。しかも面白い! 本書については、量子力学についてある程度の知識がないと説明してもわからない内容だと思うんで(一応作品のつくりとしては初心者向けに作られているんだろうけど、やっぱり内容がかなり高度なので、初心者にはなかなかついていけないんじゃないかなと思います)、これ以上内容については具体的には触れないつもりです。とにかく本書は、『一般的な量子力学の本とは違った斬新な視点で描かれていること』と『入門書では決してなく、ある程度量子力学についての知識を持っている人が読むととんでもなく面白い』という二点が重要だと僕は思うのであります。 しかし、こういう本を読んでいると、僕が死ぬまでの間に結論が出て欲しいなぁ、と思ってしまいます。未来において、本書で描かれていることについての議論が決着したとしたら、たぶんその時点ではもう、それ以外の解釈なんてちゃんちゃらおかしい、みたいな感じになってると思うんです。 アインシュタインの相対性理論の登場が、まさにそういう感じでした。アインシュタインが相対性理論を発表するまでは、『エーテル』という存在が大まじめに信じられていました。これがどういうものなのか説明しましょう。光は波であり(粒子でもあるのだけど、とりあえずそれはおいておいて)、波であるということは何らかの媒質を必要とします。例えば津波は『水』を、音は『空気』を振動させることで波を伝えますね。 では光は何を振動させることで波を伝えているのか?その媒質として考えられていたのが『エーテル』であり、エーテルには、到底ありえないような特殊な性質が設定されたのでした。でも、光が波であるならば、何らかの媒質が必要であり、であればエーテルは存在しなければならないのです。みな、エーテルを見つけようと躍起になりました。 その議論を、アインシュタインが決着させました。詳しいことは僕には分からないんですけど、アインシュタインは結局のところ、光が波として伝わるのに媒質は要らねぇんだよ、ってことを言ったんだと思います(たぶん)。それは、エーテルという存在を信じきっていた当時の物理学の世界では衝撃的だったわけです。 量子力学の世界も、今まさにそういう状況にあると言えるのかもしれません。今様々な人達が、普通には理解出来ない様々な事柄を、あらゆるやり方で解釈しようとしている。おそらく、近いか遠いかは別として、将来的にこの議論は何らかの決着を見るでしょう。そうなった時、かつてはこんな風に考えてたのかー、ある意味でとんでもないことを信じてたんだなぁ、みたいな感じに間違いなくなると思うんですね。 僕が生きている内に決着して欲しいなぁ、と思ってしまうわけです。 というわけで、本当に斬新な作品でした。量子力学という理論を『どう解釈するか』という点だけに絞った、という点が本当にこれまでの量子力学についての本にはない特殊さだと思います。そして、帯には『入門書』と書いてありますが、決して入門書ではありません。ある程度量子力学についての知識を持っている人が読めば、相当面白く読める作品だと思います。誰しもにオススメ出来る作品ではありませんけど、非常にいい本だと思いました。是非読んでみてください。

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