おどろきの中国
講談社現代新書
橋爪 大三郎 / 大澤 真幸 / 宮台 真司
2013年2月15日
講談社
990円(税込)
人文・思想・社会 / 新書
そもそも「国家」なのか?なぜ日本人の「常識」は彼らに通じないのか?日本を代表する三人の社会学者が対症療法ではない視座を求めて白熱の大討論。
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(無題)
本書は、中国を巡る大澤真幸、宮台真司、橋爪大三郎の鼎談である。この三人は社会学者で、別に中国を専門にしているわけではないが、あるひとつの共通点を有している。それは、小室直樹の弟子を自称している事である。小室直樹と言えば『ソビエト帝国の崩壊』など光文社のカッパビジネス、カッパブックスから27冊の著作が刊行された。その当時、カッパブックスと言えば、大衆路線で知られ、一流の学者が執筆することなどはなかった。しかし、ベストセラーとなった事からもわかるように、読者の支持は圧倒的であった。それまでの小室の主な収入は家庭教師で、受験生のほか、大学の研究者まで教えていたそうだ。あまりの困窮に見かねて友人知人が光文社を紹介したのだそうだ。私も一度お会いした事があるが、その時の印象は、奇人変人の一言に尽きる。この人の講演は、あまり面白くなかった。ところが座談となると俄然雰囲気が変わり、熱を帯びて快刀乱麻の勢いであった。 前置きが長くなってしまったが、本書は中国女性と結婚して肌感覚で中国を理解している橋爪が軸となり、それに大澤と宮台がからむという鼎談である。まず大澤が本書の構成について概説をしているので紹介しよう。第1部、中国とはそもそも何か。中国を中国たらしめている基本的な論理とは何か。第2部、近代中国と毛沢東の謎。中国と日本における近代化の違いとは何か。第3部、日中の歴史問題をどう考えるか。近代における日中関係をどう考えるべきか、どうして歴史問題と呼ばれるような葛藤が発生するのか。第4部、中国のいま・日本のこれから。改革開放以降の中国で何が起きているのか、社会主義市場経済というのは社会科学的にどのように捉えるべきか、そして、アメリカのことなども考慮に入れながら、日本としては、これから、中国との関係をどう築いていくべきなのか。つまり、日本人にとって中国や中国人が今ひとつ分からないが、どうして分からないのか、また、何が分からなくしてるのかを明らかしようとするのが本書の目的と言っても良いだろう。 論点は多岐にわたるので、とても要約はできぬが、幾つか紹介すると、第一部では中国にはアルプス山脈も地中海もなく、移動のコストが安いので戦争が常態であった。それがローカルな政府が分立していた春秋戦国時代。その不幸な経験を踏まえて、全体がひとつの政権に統一されるべきだという人々の意思統一ができあがった。よって中国社会において最も優先順位の高い価値は「安全保障」であり、政府もそのために存在する。また何故中国では武官よりも文官が優位なのか。中国の人びとは、アグレッシブで自己主張が強く、自分の個人的な能力で人生を生きていこうと考える。こういう中国人が大勢集まると、力のぶつかり合いになってしまう。そうした争いや戦いを避け平和にものごとを進めるため、聡明にも統一のルールにより競って順番をつけ、その結果には全員が従うと合意する。それが科挙の本質であり、また中国共産党の序列もこれで説明できる。 どのように世界を見ているかという「コグニティヴ・マップ」(認知地図)は、中国と日本、そして朝鮮半島とで全く違う。相手の認知地図をつかむのが外交や異文化理解の基本なのだが、その努力が、特に日本では圧倒的に足りないという。また、歴史認識について、日本人は二つの両極端に分かれる。一つは、過去に酷い愚かな過ちを犯した人たちと現在の自分たちとのつながりを否定する態度である。あれは、自分の生まれる前の人々の蛮行であって自分とは関係ないと考える。もう一つは、過去と現在の自分たちとのつながりを引き受ける代わりに、過去の倫理的な過ちをわり引く。戦時の日本人や日本軍のやった事も全面的には悪いとは言えない、良い面、肯定的な面もあった、とみなす。日本人の心理を巧みに問き明かすが、私に言わせれば、もっと単純に天皇の戦争責任を明らかにしていれば、現代の日本人はこんなに悩まないで済むのにと思う。
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