飛躍 交代寄合伊那衆異聞

講談社文庫

佐伯 泰英

2015年9月15日

講談社

693円(税込)

小説・エッセイ / 文庫

改修を終えたベンガル号を得て、東方交易は順風満帆に見えた。だが、新拠点横浜から悲報が。黄大人たちが襲撃されたという。攘夷派かそれとも幕閣の差し金か。横浜へ急ぐ座光寺藤之助は、一統を率いる者として、重大な決断を迫られる。幕末前夜を駆ける大スケールの冒険譚、ついに完結!

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Readeeユーザー

(無題)

-- 2018年01月20日

このシリーズ、物語が始まってまだ6年しか経過してなかった。いかに幕末の激動期とはいえ、思い返せばずいぶん遠くにまで来たものだ。伊那の山猿だった藤之助が武の世界をから商の世界に活躍の場を広げて、世界雄飛しようとしている。運命の数奇さもさることながら、状況の変化とともに人間のスケールをどんどん広げていく藤之助の懐の深さに小気味よさを感じる。 さて藤之助は今でこそ東方交易のコマダンテであるが、その出自を尋ねると交代寄合衆、座光寺家の家臣であった。本宮藤之助は、故あって信濃国伊那谷にある座光寺当主となった。ところで交代寄合とは聞き慣れない言葉であるが、これを再確認しておきたい。まず「交代」とは「参勤交代」のことである。次に「寄合」とは、上級旗本のうち無役のものを指す言葉。参勤交代とは普通、大名に課せられたものと私たちは理解しているが、実は石高一万石以下の旗本でも参勤交代をしていたのだ。それが交代寄合である。旗本は普通、江戸在府で若年寄支配であるのに対し、交代寄合は領地に所在して老中支配であった。つまり大名と同等、もしくはそれに準ずる待遇の格式を持っていたのである。座光寺家は「首切り安堵」の使命を帯びていた為に、それだけの格式を与えられていたのだった。 江戸が安政の大地震に見舞われた。藤之助は陣屋家老片桐朝和神無斎の命で江戸屋敷へ急行することになった。物語はこうして始まったが、それはわずか6年前の事であった。そして23巻目、本巻に至りクライマックスを迎える。藤之助の図抜けた戦闘力の高さもさることながら、列強の圧力に右往左往する幕閣を尻目に現代の読者と共有する藤之助の視線が本シリーズ最大の面白さであった。つまり、史実を知っている読者は、安全で高いところからこの小説の世界を俯瞰してきたことになる。読者と世界観を共有する藤之助の存在は、幕末の世相に馴染まなくなってきたとも言える。このため、江戸から世界へと飛躍させることで辻褄を合わせざるを得なかったのだろう。

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