峠越え

「凡将家康、乾坤一擲。」 この帯の言葉に一目惚れして購入。読了後、まさにこのワードほど、本作の的を得た言葉もないことを痛感した。 本作の主人公は後の天下人、徳川家康。 本能寺の変で、伊賀越えを敢行するシーンをクライマックスに、前半生における人生の節所（桶狭間、金ヶ崎、姉川、長篠、信康自刃、甲州征伐など）を描く。 信長のいるシーンでは、至るところで信長の異才さが描かれる。凡将であるが故に、信長と異なり一歩先が読めない。されど、太原雪斎の言葉を胸に（知ってか知らずか）、ここぞというときの決断力、ぶれない心は見ていて爽快だ。 「竹千代、節所を見極めて、悔いなく生きろ。37」 そして、クライマックスに近い本能寺の変。 個人的には本能寺の変のカラクリは府に落ちないものの、小説としてはとても面白みのあるものだと思う。天才信長に命を狙われた凡将家康が、最後の最後で信長をまくる。 「右府様、凡庸なわしを侮りましたな。257」 なんと爽快なシーンだろうか。 最後に伊賀越えをして、伊勢湾を進む家康は、信長死後、凡将家康は、凡将だからこそできる生き方を模索する。 「さて、三河に戻った後、いかがいたすか。322」 この凡将家康が、小牧長久手を越え、秀次切腹を越え、関ヶ原を越える。そんな未来を楽しく想像できる終わりかただ。

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