
祈りの幕が下りる時
講談社文庫
東野 圭吾
2016年9月15日
講談社
858円(税込)
小説・エッセイ / 文庫
明治座に幼馴染みの演出家を訪ねた女性が遺体で発見された。捜査を担当する松宮は近くで発見された焼死体との関連を疑い、その遺品に日本橋を囲む12の橋の名が書き込まれていることに加賀恭一郎は激しく動揺する。それは孤独死した彼の母に繋がっていた。シリーズ最大の謎が決着する。吉川英治文学賞受賞作。
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祈りが届くように
自分の親がある日前触れもなく突然出ていったらどうしますか。なぜ自分を置いて出ていってしまったのか。どこにいるかもわからない。家族を置いて勝手に出ていったことを恨みますか。もうずっと昔にいなくなった人。自分たちと別れたあと、どんな人生を送っていたのか。どんな気持ちで毎日過ごしていたのか。それを知ることを自分が望んでいるのか。 記憶から抹消してしまう方がずっと楽かもしれない。もともといなかったと思うほうがずっと簡単でずっと気持ちも楽だろう。 でも、知ってしまった。 自分とは全く関わりのない土地で、一人きりで生きていたことを。 知ってしまった。 出ていった本当の気持ちを。出ていったあとも、ずっと自分のことを気にかけていたことを。祈るように、幸せであれと、いつもいつも願っていたことを。 知ってしまった。 許せるのだろうか。いつかその気持ちがわかるときが来るのだろうか。 祈りが愛情溢れるものなのであれば、届いてほしい。全部じゃなくていい。ほんの少しでもいいから、届いてほしい。鏡にように揺らがず硬くなった心。祈りは心に柔らかな波紋を立てることができるだろうか。 君が幸せであれ、君に輝く未来あれ、君が元気で生きている、それだけで充分幸せだから。それ以上は望まない。親とはそういうものなのかもしれない。
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とも
(無題)
加賀恭一郎シリーズの第10作である。さすがに手練れのミステリー作家である。安心して読んでいられる。本作では加賀の母親の失踪理由が明かされる他、加賀が配属先の管轄である日本橋に積極的に溶け込もうとしていることや、優秀ながら所轄の刑事のままでいる理由が語られる。クールで頭脳明晰、卓越した正義感がどのように形作られたのかがよくわかって興味深い。 加賀恭一郎を主人公とするミステリーであれば当然のこと、殺人事件が発生する。小菅のアパートで滋賀県在住の40代女性・押谷道子の腐乱遺体が発見された事件だ。アパートの住人・越川睦夫は消息を絶っていた。捜査一課の刑事・松宮は殺害時期や現場が近い新小岩の河川敷で発生したホームレス焼死事件との関連性を感じながらも、道子の住む滋賀県での捜査で道子が中学の同級生で演出家の浅居博美を訪ねに上京したことを突き止める。本書における謎の第1は越川の行方である。そして第2は加賀の母・田島百合子の面倒をみていた綿部俊一の正体、そして越川のアパートにあったカレンダーに書かれていた、12箇所の橋の名前の意味である。 この物語では3人が殺されている。3件の事件とも動機は共通している。我が娘を守るためであった。つまり、ミステリーの裏には父娘の愛があったのだ。人の思いが紡ぎだす物語の何と切ないことだろうか。私ぐらいの歳になると、そうまでして生きることに意味があるのだろうか、とアッサリと生を否定したくなってしまう。だから、越川が「もう疲れた」と焼身自殺する気持ちがよくわかる。
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