イスラム戦争 中東崩壊と欧米の敗北

中東崩壊と欧米の敗北

集英社新書

内藤正典

2015年1月16日

集英社

836円(税込)

人文・思想・社会 / 新書

混迷を極める中東に突如現れたイスラム国。捕虜の殺害や少数民族への迫害が欧米経由で厳しい批判と共に報じられているが、その過激な行動の裏にある歴史と論理は何か?本書はイスラムそのものに対するメディアの偏見と、第一次世界大戦時に確立された欧米による中東秩序の限界も指摘。集団的自衛権の行使容認で中東に自衛隊が派遣される可能性が高まる中、日本が今後イスラム世界と衝突することなく、共存するために何が必要なのかを示す。

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Readeeユーザー

(無題)

-- 2018年01月21日

ムスリムの国で世俗化で成功した国としてエジプトとトルコをあげる僕の知見をひっくり返した最近の出来事だった。親米・親イスラエルのムラバクの元で国内運営が上手くいっていると思われていたエジプトは、ジャスミン革命を契機に国民の不満が一気に爆発してムラバクの独裁ぶりを国際世論に暴露するところとなった。その後は選挙で選ばせた大統領が就任して民主化の道を進むかに見えたが、軍事クーデターでそれも後戻り、どこに行くのか混沌としている。また、建国の父・アタチェルクの強力な指導力をエネルギー源にEU加入も目前とみられるほどに西欧化の道をたどったトルコもエルドアン現大統領のイスラム回帰を思わせる発言に「おや」と思う事もしばしばであった。西欧文明に一番近いと思われる両国でもこんな有様なのだから、他のムスリム諸国は推して知るべしである。 その最たるものが「イスラム国」であろう。私たちが暮らす西欧文明の常識から言えば、国際テロ組織が「国」を僭称するとは何事だ、となる。現代の私たちが「国家」と考えているのは、国民と領土とからなる国民国家である。国民国家にあっては「主権在民」も大事な要素である。それでは、ムスリムはどう考えているかであるが、まず主権は「民」の手にはない。主権を握っているのは「神」なのだ。次には国民である。イスラム国によればイスラム国の主義主張に賛同すれば、世界中どこにいてもイスラム国の国民であるという。言語も民族も一切関係ないのだ。最後に領土であるが、イスラム国がイラクとシリアにまたがる事からも分かるように、西欧国家が地図上に引いた国境線などは全く意識していない。このようにムスリムの人々の考え方は、私たちとは全く違うことを理解しなくては問題の解決は覚束ない。 本書は書名からも明らかなように、ムスリムの人々の考え方や発想を日本人に分かりやすく解説したものである。日本に暮らしていれば、アメリカ経由のバイアスのかかった情報しかはいってこないから、アラブ世界の価値観に接することのできる本書は貴重である。例えば僕は、本書を読んで「豊かで自由な欧米の若者が何故イスラム国の戦闘員となるのか」とのかねてからの疑問が霧散した。また、サブタイトル「中東崩壊と欧米の敗北」にも触れておきたい。著者は中東は最早崩壊していると考えている。それで著書は中東が秩序を保っていた頃の歴史から説き起こす。第一次世界大戦におけるオスマン帝国の敗北で、アラブ世界は分断された。言葉を変えればイギリスとフランスによる中東地域の切り取りと言っても良い。中東という言葉自体、極東と並んで大英帝国からの距離を表現している。英国の二枚舌、三枚舌外交が現在のパレスチナ問題の原因であることにも言及している。中東地域の石油資源を巡って欧米諸国による国益優先の行動が、最早中東地域に暮らす人々の不満を押さえつける力を持たない事を言い表している。 もう一つ、著書が本書で発している重大なメッセージがある。それは、安倍政権の集団的自衛権の前のめりな姿勢への危惧の念である。我が国の安全保障が米国の軍事力に依存しているとはいえ、アメリカ一辺倒はあまりに危険である事に著者は警鐘を鳴らすのだった。

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