
カケラ
集英社文庫(日本)
湊 かなえ
2023年1月20日
集英社
726円(税込)
小説・エッセイ / 文庫
美容クリニックに勤める医師の橘久乃は、久しぶりに訪ねてきた幼なじみから「やせたい」という相談を受ける。カウンセリングをしていると、小学校時代の同級生・横網八重子の思い出話になった。幼なじみいわく、八重子には娘がいて、その娘は、高校二年から徐々に学校に行かなくなり、卒業後、ドーナツがばらまかれた部屋で亡くなっているのが見つかったという。母が揚げるドーナツが大好物で、それが激太りの原因とも言われていた。もともと明るく運動神経もよかったというその少女は、なぜ死を選んだのかーー? 「美容整形」をテーマに、外見にまつわる固定観念や、人の幸せのありかを見つめる、心理ミステリー長編。 【著者略歴】 湊かなえ(みなと かなえ) 1973年広島県生まれ。2007年「聖職者」で第29回小説推理新人賞を受賞、受賞作を収録した『告白』でデビュー。同作で09年本屋大賞を受賞。12年「望郷、海の星」で日本推理作家協会賞短編部門、16年『ユートピア』で山本周五郎賞を受賞。18年『贖罪』がエドガー賞候補となる。その他の著書に『夜行観覧車』『白ゆき姫殺人事件』『母性』『山女日記』『リバース』『未来』『落日』など多数。
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外見至上主義
starstarstar 3.2 2023年05月03日
star
カケラ
外見至上主義の美容外科医が、自身の施術を受け、美を得たはずの女性がどうして自殺したのかを周辺の人物にインタビューをして解明していく話。
外見至上主義(ルッキズム)により、美を得ることは幸せに繋がると考えられ、また外見がいいと内面もいいと思わせる光背効果は社会に浸透しているため、不細工だと見下され、太っていると生活にだらしなく人間失格であるという価値観が氾濫している。
この小説は、美が本当に幸せに結びつくのか、また美に対する価値観を他人に押し付けることの残酷さを主題としている。
(叙述トリックを使うわけでもないのに、登場人物の名前をはっきりかかず、インタビューを受ける側の視点を貫いて第一人称を「わたし」に統一しているのは物語を煩雑にさせてかなりわかりにくかった。から、時間が経ちすぎて、感想という感想がまとまらない。。主題はかなり面白いが)
第1章では、横綱の幼少期の回想をメインとした志保の話。
肥満体型の志保の祖母は、志保の痩せ体型に嫉妬・羨望して、志保に対して痩せている体型のことを執拗に咎め、攻撃していた。
そのせいで、体型に対して固執するようになり志保は太っている横網を見下す。
また自身が横綱に行った悪行は、橘先生のせいにするなど、他責的な一面もある。
外見主義の祖母により、自尊心を傷つけられ、体格に対して囚われ、人格形成が発展できず、自身の人生のうまくいかないことや都合の悪いことを他人のせいにしていることは、外見主義による犠牲者の一人もある。
第二章では、外見主義の如月(きさらぎ)が吉良有羽(ゆう)の人柄について話す回。
彼女は人を外見で判断して、外見が悪い人を貶めることで快感を覚える。中途半端な美を持っているため、嫉妬・羨望が強く、外見が悪い人に対して支配的、攻撃的になり、自身の中途半端な美のプライドを守っている。外見至上主義のため内面を重視してこなかったため人格が育たたず、短絡的な思考で、精神的な未熟な女性として描かれている。
しかし有羽の明るい人柄に魅了され、外見で人を評価することに疑問を覚える兆しもある。
第3章では、堀口父により、最近の横網の人柄について話す回。
チビであることを遺伝だから仕方がないと、チビについて揶揄されることに腹を立っているが、デブは好天的であると決めつけて揶揄をする。堀口父も自分の都合の良いような価値観を作り出し、棚上げしている。また自信が持てない自分を隠すために女性に対してオマエと高圧的な態度をとるなど、精神の狭量が露呈する。
堀口息子も父親と同じように、コンプレックスに苛まれ、自身の精神の狭量を隠すために強がってしまい、有羽を傷つけてしまう。
第4章では志保の妹で、中学教師をしている希恵の話。何事も自分の都合の良いような解釈をして、正論や権利を振りかざし、相手を支配することを快感とする愚かで、攻撃的な人間について、話を展開していく。
自分の見た目と関係なく、人柄をみてくれた男性と出会えており、美がもたらす幸せに横槍を入れている。
お金を得て幸せを得た人は、お金を失うことに恐怖を覚えるように、美で幸せを得た人は、美を失うことに不安になる。しかし時間と共に美は必ず保てなくなるため、美がもたらす幸せとは一時的であることを仄めかす。
第5章は、高校の担任の柴山が自身の経験から得た美への価値観を他人に押し付けるかなり視野狭窄した短絡的な女性である。
自分の価値観を否定されることは、これまでの自分が否定されることなので、苦痛を感じないために他人の意見を聞こうともしないし、改めようと思い直すこともしない。自分と他人を違うことを受け入れず、自分の正義を人に振りかざし、自分の価値観に当てはまらない人たちには、糾弾して、自己愛を保つ。どんどん視野狭窄していき、歪んだ思考が生まれる。
第6章は横綱が自身の葛藤を話す。
自己顕示欲を満たすために、憧れでもあった有羽の実母を裏切ってしまった罪悪感から、最終的に有羽を追い込んでしまう。
自分がデブであるという劣等感と、綺麗で認められたいという承認欲求に苛まれ、有羽の母親を裏切り、父親と結婚したが、実際は父親には利用されていた。
幼少期から太ってる外見のせいで人柄までもがダメであるとレッテルを張られた上に、デブであることを虐められてきたことで、自信を持てず、何事も自責的に考えてしまっている。この性格が有羽を追い込んでしまった背景に通じている。
外見至上主義による犠牲者として象徴的に描かれた。
第7章は有羽の登場となる。
ここで真実が明らかとなる。デブであるという、一般的に不利益なことを、正義のだしに使われ、本人の気持ちを無視して周囲が自分たちの支配欲を満たすための材料とされてきた。
デブであっても幸せだった有羽であるが、攻撃的、支配的な人間が、デブは幸せではないから痩せるべきだという価値観や正義感、正論の押し付けにより、彼女の自尊心、自己肯定感、尊厳、誇りが傷つけていった。
それでも自分のことを第一に考えてくれたお母さん(横綱)のおかげで、自尊心を保っていた。
しかし、太った原因がお母さんのせいにされてしまうなら痩せれば問題を解決すると思い美容施術を行ったが、痩せた姿が実母に重なったことでお母さんの後ろめたさを刺激してしまい、悲惨な最後を迎えてしまう。
登場人物は
外見至上主義の風潮により
外見が悪いことで内面までもが悪いとレッテルを貼られた女性(横網)や
外見が良いため内面をおなざりにされて周りから認められて育ち、自尊心が強くなりすぎて、人格が成長しない自己愛の強い女性(橘先生、如月)、
外見をとやかく言われて育ったため外見至上主義に巻き込まれてしまった女性(志保)、外見至上主義を違和感に覚えず、デブは悪であるであると相手の気持ちも考えず正論や世の価値観を振りかざす女性(柴山)が印象的に描かれている。
本当に大事なことは、人格であるのに、外見至上主義のせいで、人々は外見にコンプレックスを持つと、そのせいで幸せになれないと考え、美容外科に縋る。
確かに美を追求することは幸せに繋がることが多い。いい相手を捕まえやすくなるし、自己愛も満たされる。しかしこのような考えは必ずしも他人には当てはまらないことを忘れてはならない。外見を気にしなくても幸せな人たちはたくさんいる。また幸せの定義に外見は関係ないはずである。それを忘れてしまい外見の良さが幸せに繋がることに固執すると外見至上主義になってしまう。
外見至上主義は(外見を重視しすぎて)内面を軽視するため人格が未熟になりやすい。
美による幸せを得たとしても、それは見せかけの幸せになってしまう。なぜから幸せを得るための大前提は人格の尊重であるからだ。(また同じ夢をみていた参照)
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外見至上主義
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