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九十九藤
集英社文庫(日本)
西條 奈加
2018年9月20日
集英社
825円(税込)
小説・エッセイ / 文庫
江戸の人材派遣業、口入屋。縁あってその女主人となったお藤だったが、武家相手の商売は行き詰まっていた。店を立て直すため、お藤が打って出た一世一代の大勝負は、周囲の反発を呼び、江戸を揺るがす事態に発展。さらに、かつての命の恩人によく似た男と出会い、心は揺れ…。商いは人で決まるー揺るぎない信条を掲げ、己と仲間を信じて人生を切り開くお藤の姿が胸を打つ、長編時代小説。
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(無題)
こんなにも達者な時代小説作家がいたなんて、うっかりしていたものだ。西條奈加は「三途の川で落しもの」を読んで、ああ、こういう作風ね、と判断して、その後他の作品に手をつけようとしてこなかった。ところが『心淋し川』で今年の直木賞を受賞するに及んで、あれ!、ちょっとイメージが違ったかも、と著者を再認識した次第である。 時代小説の1番良いところは、人情や恩と言った現代小説では扱いづらいテーマを正面切ってモチーフにすることができるところではないだろうか。人は一人では生きられない。人間は支え、支えられて生きている存在であるからだ。それは家族であったり、友人であったり、あるいは職場の同僚かもしれない。我利我利亡者と呼ばれる自分勝手な人間であっても、家族には思いやりを見せたり救いの手を差し伸べたりするのであろう。どんな人にも愛する人がいる。だから一概にその人を非難するのはあたらない。人の世はホンにむつかしい。 しかしながら、最近は助け合うとか人を思いやったりとかの気持ちが全体的に薄れているように感じる。かつては社会全体で共有していたそれらの気持ちが、個人主義や自己責任の気風が社会に浸透する中で薄れていったのだろう。それと、もう一つは教育の影響が大きい。多くの人が高等教育を受けられるようになった今でも、そこで身につけられるスキルは、経済活動に円滑に参加できる技能である。換言すれば、日本の教育は企業が求める人材しか育成してこなかったのである。だから、頭が良くて立派そうに見えても、一旦緊急事態となれば右往左往したり、とんでもない失言が飛び出したりするのである。政財界のリーダーは、そんな人ばかりである。肝心な人間教育をしてこなかった結果である。リベラルアーツに取り組むべきである。
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