マザコン

斎藤環先生の「母は娘の人生を支配する」で母娘関係の複雑性を学び、より具体性を知りたく、この小説を読んだ。 母娘関係だけでなく、母息子関係に焦点を当てた短編もあり、様々な葛藤をみることができたが、母息子より、母娘の方が関係性が錯綜としてる。 その錯綜の原因は、斎藤環先生が解説して下さっており、以下は上記の著書を自分なりにまとめたものである。 → 【父―息子は単純な権力による支配で単純素朴だが、母―娘は思いやりや共感による支配のため、感謝と罪悪感といった両価的な気持ちが生じやすく、心理的な距離が取りづらい。 その背景に、母にとって娘は、自分と同性であり男の子よりもはるかに弱く従順な存在であるが故、また子育ての度を越えた責任感の故に生じる万能感が生じることで、「母親の支配を受け入れるべきである」「母親は娘の生き方を支配してもよい」という無意識な期待、思い込みが生じる。こういった支配は母娘の同一化による側面がある。これは男性性の概念は知的、運動能力などの社会的地位といった抽象的な観念があり、一つにまとまっていることに対して、女性性の概念はそういった本質はなく、それぞれ幼少期に刷り込まれた「女性はこうあるべきだ」という身体性にとどまっていることが要因となっている。 身体性とは、きれいな髪型や可愛いドレスといった外見や所作などの身体と外観に関わる要素であり、母親が娘に伝達するものとなる。つまり「女性らしさ」といったイメージのことで、幼少期に母親から押し付けられる培われるものである。男性は、男性性の価値規範が抽象的で普遍的なため、反発できるが、女性は、イメージとして押し付けられるため否定しづらい。その上、そのイメージを含めて女性性の価値観は一つではなく多種多様であるため、女性同士の助けにも繋がりにくく、女の敵が女になることもあり、孤立しやすい。そのため母親の価値観そのものが呪縛となり人生に影響を与える。この「女性らしい」イメージの母から娘への共有は避けられない過程であり、母が娘に対して女性性を教えるといった「一次的支配」となる。そのため、娘のアイデンティティは母親の言動が内在化したものとなり、母を否定するということは自分自身の否定に繋がってしまうため、母娘関係を完全に断ち切ることは難しくなる。 また母娘は最も身近な存在でありながら、その女性性という点において、強い反発や嫌悪の対象にもなる。女性性は本質がなく、身体性といった表象であることからか、女性は女性身体に対してどこか居心地の悪さを感じる事が多い。母親は、性的存在へと成熟しつつある娘に対して、その女性身体ゆえに嫌悪を覚える。一方で、娘も、性的なもの全般への嫌悪に加えて、成熟の帰結としての母親をも嫌悪する。しかし男性と異なり、自分の身体を常に意識させられ、それ自体を女性同士でしか共有できないことから、母娘は心理的な距離が近づいてしまう。距離が近くなることで、お互いの境界が曖昧となり、母親が娘に対する同一化が生じやすい。その結果、母の欲望は娘の要望であるといった投影性同一視が起きて、自分の願望と理想を押し付けるといった「二次的支配」が生じる。このような複雑で錯綜した関係性に、父親などの第三者の存在が助けとなるが、父親は、母娘関係の複雑さに気が付かず、また仕事を盾に介入せず無関心であることが多い。そのため二者関係となることで、アイデンティティの混乱や妄想分裂形態が生じやすくなり、攻撃性の温床となってしまう。すべての母娘関係が問題を抱えているわけではないが、こういった理由から、一旦こじれると、そこは極めて錯綜した愛憎関係の温床となる。】 自分が精神科医になった理由は色々ある。 手術や内科に興味がなかったこと、理系脳というより文系脳であること、小説が好きなこと、QOLが保たれていること等である。 だけど、一番の理由は、自分という人間を知りたいところである。 性格は気質と環境で構成される。環境とは、精神分析的には、欲動論、自我論、対象関係論、自己論等の理論に基づいて考えられる。その中の対象関係論とは、自分にとって大事な対象によって受ける影響のことである。この対象が内在化したことで性格が形成される。この対象は幻想等も入るが、なんといっても一番の影響は母親だろう。 当たり前だが、母親が与える影響はとんでもなく大きい。なので自分を紐解くには、母親を知る必要もある。だから母親がどう言った人物なのか言語化したいと常々思っている。それを一助に自分の性格や葛藤を紐解きたい。母親の悪い側面は、反面教師にして、子育てする時はどうしたら子供は健やかに育ってくれるのかも知りたい。 そういった葛藤から精神科医へとなった。正直、自分は男なので、母息子関係はそこまで錯綜としていないと思っている。自分は母親を蔑むことで成長してきたし、早々に一人暮らしをすることで呪縛から解放されたと思っている。精神分析的には子は親を蔑むことで成長できると考えられているので、蔑むことは健康的なことでもある。 今もだが、母親は子供と自分の境界性が不明瞭のため同一化をしやすい故に、過干渉で過保護となり、子供が自分の思い通りにならなかったら愚痴ったり、他人と比較する等、支配的な側面がある。そしてタチの悪いことに、こういったことに無自覚で善意だと考えている。そして否認の防衛機制が強く、直面化しても響く様子がない。まさに暖簾に腕押し状態だ。 こういった母親を持った姉は、かなり大変だったと思う。だけど一見、関係性は悪くなさそうだ。姉はどのようにして対処してきたのだろうか。そして母に対して何を考えているのだろうか。 斎藤環先生は、母親から逃れる方法は、一人暮らしをすること、第三者を介入することが大事だと述べていた。また母親を「一人の不完全な女」と見れた時、支配からの解放と一抹の寂しさを知ることができる、と記載していた。 母娘関係は非常に複雑だ。今度姉に、直接聞いてみよう。ことごとく母親の望むものとは逆の方向に進んだ姉に。

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