薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木
集英社文庫(日本)
江國 香織
2003年6月30日
集英社
1,012円(税込)
小説・エッセイ / 文庫
情熱。ため息。絶望…でも、やっぱりまた誰かを好きになってしまう!恋愛は世界を循環するエネルギー。日常というフィールドを舞台に、かろやかに、大胆に、きょうも恋をする女たち。主婦。フラワーショップのオーナー、モデル、OL、編集者…etc.9人の女性たちの恋と、愛と、情事とを、ソフィスティケイトされたタッチで描く「恋愛運動小説」。
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(無題)
この本には9人の若い女性の日常が活写されている。そこには恋愛や夫婦生活、不倫、離婚といった愛憎劇が存在するが、それはあたかも風景のように淡々と描かれる。映画のカットを次々と見せられるようだ。例えば、フラワーショップの女店主・エミ子は11年の結婚生活をある日、あっさりと解消した。それはあたかも子供が育ちあがって責任を果たしたので、残りの人生を自分のために送ると決めた熟年離婚の様相を呈した。夫は何故なのか、離婚の理由に見当を付けられずに唖然としているし、友人知人も日常の付き合いからその意外さに驚く一方だった。エミ子が離婚を決めたのは、夫を愛していないことを自覚したからだった。ところが、夫が家を出た今は、孤独の闇がさらに広がったのだった。 カメラマンの夫、楽しい時間を共にする事のできる多くの友人、雑誌編集の仕事、望み得るものは全て手に入れているかに見えるれいこであったが、彼女も心の底に孤独を抱えていた。れいこが土屋保との離婚を決意したのは、小島桜子が夫・保との交際を告白したのがキッカケであった。桜子はれいこの雑誌社でアルバイトをしていた。まだ処女であったが、桜子から保に近づいたのだった。うら若き乙女が中年男に抱かれたがる、そこには恋心とは違うものがありそうだが、男には理解しがたい心理だ。保にはもうひとり年若い愛人がいる。竹田衿である。均整のとれた肢体を活かしてモデルをしているが、売れっ子とは言い難い。したがって、決して豊かではない中で計画的に保との子を妊娠し、シングルマザーの路を選ぶ。男はほとんどがロジックで出来上がっている。男の論理をあっさりと乗り越えてしまう女の意思が何を根拠にするのか、男には理解できない。 こんな風にして9人の女たちは日常というフィールドを舞台に、かろやかに、大胆に、きょうも恋をするのである。その意味では、本編の主人公・陶子の恋に触れないのは、片手落ちというものなので、少しばかり紹介しておくことにしよう。陶子は結婚4年目の専業主婦。オットリタイプというか、どちらかといえば主体性があまり感じられない女性。しかし、こと恋愛に関しては、かなり積極的だ。公園で知り合った近藤慎一と不倫関係にある。毎週ホテルで情事を楽しむが、事が済めばそんな素振りはこれっぽっちも感じさせない。だから、夫・水沼との間も円満である。この神経の太さも男にはとっては謎である。 そんな男を代表して男心を語るのが陶子の元恋人、獣医の山岸である。「あなた方女性は恋愛に熱心ですね。私には、もうそんなエネルギーはない」。
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