終わらざる夏(上)

浅田次郎

2010年7月31日

集英社

1,870円(税込)

小説・エッセイ

第二次大戦末期。「届くはずのない」赤紙が、彼を北へと連れ去ったー。北の孤島の「知られざる戦い」。あの戦いは何だったのか。着想から三十年、著者渾身の戦争文学。

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3.8 2018年01月29日

まずはこの小説の概要を紹介すると、昭和20年8月15日以降、千島列島の最北端、占守(しむしゅ)島で繰り広げられた戦いの物語である。 硫黄島に星条旗が掲げられ、最後の砦であった沖縄も陥落した。日本は制海権も制空権もアメリカ軍に握られ、それでも、なお本土決戦、一億総玉砕と唱え続けた市ヶ谷の大本営。 大本営の地下要塞では、本土決戦に向けての兵隊集めがパズルで升目を埋めるように、強引に決められていった。各県ごとに動員は熾烈を極めた。そうして集められた兵隊の中、特業と呼ばれる技能者の三人が本編の主人公。 兵役義務年齢ギリギリの45歳で動員された片岡直哉は、近眼で兵役検査乙種となり兵役義務が免除されていた。翻訳出版社で編集長を務めている。彼は東京外国語学校を卒業していたことが決め手となった。 帝大医学部に籍を置く菊池忠彦は、岩手医専を出た医師で、兵役検査で赤紙逃れをする人たちに手を貸し診断書に手心を加えて特高のターゲットになっていた。恩師が帝大医学部に入学させて兵役から逃げることが出来たが、医師免許を持っていることが決め手となり出兵となった。 鬼熊と呼ばれる富永熊男は、すでに三度の兵役に従事してきた。所属は輜重隊であったが、果敢に戦闘に参加し、一番乗りで勲章まで戴いている地元の英雄である。三度目の兵役で右手の指を三本、機関銃で撃たれてなくした。いまでは地元でトラックの運転手をしている。運転の技能があることで四度目の赤紙がきた。 本土決戦の前に、千島列島が攻められると誰しもが思っていた。 アメリカ軍が本土侵略をする前に、千島列島を抑えにかかることは容易に想像できたからだ。 千島と隣接するロシアは、ドイツとの闘いで疲弊のうえに、日本とは不可侵条約を結んでいるので、よもやロシアが攻めてくるとは誰も想像だにしなかった。 毎日、偵察機を飛ばしてくるアメリカ軍が攻めてくると思われていた。 千島列島の国境に占守島(シュムシュ)と呼ばれる小さな島がある。平地であったために飛行場が作られ北方最前線として考えられていた。北から攻め込む米軍を占守島(シュムシュ)で食い止めようというのだ。 本土決戦は避けられないと思われていたが、先見ある下士官は、ロシアの仲介で講和が結ばれて戦争が終結するのではないかと思っていた。ロシア(ソ連)とは日ソ不可侵条約がありロシアが攻めてくるなんて露ほども思っていなかったからだ。 ところが、ロシアは早々とドイツが降伏したので、戦力に余裕が出来ていた。不可侵条約はロシアにとっては格好の条約で、日本のことを気にしないでドイツとの戦いに全力投球できた。 「終わらざる夏」上巻は、敵との通訳を担当する片岡、軍医の菊池、運転手の鬼熊の三人の生い立ちや、赤紙が来たときの胸の内やら、本土決戦を家族構成の一人ひとりの心模様が、こと細かく綴られている。悲惨な戦争の最前線にいて、死を前にした思いや行動には涙する。

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