ジヴェルニーの食卓
原田 マハ
2013年3月31日
集英社
1,760円(税込)
小説・エッセイ
マティス、ピカソ、ドガ、セザンヌ、ゴッホ、モネ。新しい美を求め、時代を切り拓いた巨匠たちの人生が色鮮やかに蘇る。『楽園のカンヴァス』で注目を集める著者が贈る、“読む美術館”。
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(無題)
初原田マハを読み終え、この本を選んで良かったと思う。丁度近代絵画史を授業で習っていたため、原田マハ作品が今ならよく理解して読めるんじゃないかと勝手に思っていたが、見事にハマった。作品自体は過去の偉大な画家に焦点を当てた、四部作であった。個人的には、タンギー爺さん、タイトルにもなっているジヴェルニーの食卓が好きで、どれも有名な画家とそれに携わった人たちとの物語を忠実に基づいたフィクションという形で表している。 ピカソやモネと言った誰もが知っている画家と聞くと変人といった固定観念があるが、その通りといえばその通りであった。しかし、彼らが孤立した自分の世界に浸る気取った芸術家のイメージなんてものはなく、家族や友人、恋人など心の許せる相手、そして彼らを支え心から愛している方々が存在しているのを知る。また、天才的な発想から誰もが知る有名な作品を生み出したわけではなく、悩みや葛藤、苦労から生まれ出る作品を日常性とアトリエや邸園を感じながら、味わう事ができた。
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(無題)
クロード・モネの『睡蓮』は日本人の最も好きな絵画の一つですね。モネが生涯にわたって描き続けた彼の庭園があるのがジヴェルニーの地です。モネの住んだ家と庭園は一般公開されており、観光名所となっています。モネの庭園を訪れ、そこに太鼓橋を見出した時、全ての日本人は巨匠の心の中に日本への憧れがあることに気づきいて、誇らしい思いを抱くのではないでしょうか。 当時、パリ万国博覧会に出展された日本の工芸品の珍奇な表現方法は、多いに人気を集めたものでした。日本画の自由な空間表現や、浮世絵の鮮やかな色使いは当時の画家に強烈なインスピレーションを与えました。そして何よりも、絵画は写実的でなければならない、とする制約から画家たちを開放させる大きな後押しとなったのです。 所謂、ジャポニズムですね。また、印象派の誕生を後押しした出来事として、チューブ絵の具の発明も見逃せません。これにより画家は、屋外で絵を描くことが可能になったのです。ところが屋外は、日差しや天候が刻々と変化するので、室内のように同じ条件下でゆっくり絵を描くというわけには行きません。従って細部を省略し、すばやく絵を描く技法が生まれました。こんな中、1874年にモネ、ドガ、ルノワール、セザンヌ、ピサロ、モリゾ、ギヨマン、シスレーらが展示会を開催しました。この時モネは『印象、日の出』を出展しました。ここから後に印象派と呼ばれる絵画が誕生したのでした。 ところで、モネが世に出る前、大家族がゆったりと食事出来る食卓と色鮮やかな花々が咲き乱れる庭を持つ事が夢でした。その夢を実現したのがジヴェルニーの家と庭園でした。モネは生涯に渡って資金と愛情と労力を注ぎ込みました。その家の食卓で食事をしたのは、誰だったのでしょうか。家族は勿論、生涯のパトロンにして畏友である政治家のクレマンソーもそのうちの1人でした。しかし、誰よりもモネと食卓を共にする事が多かったのは、義理の娘・ブランシュでした。この作品はブランシュの眼と口を借りてモネの生涯を描いています。 本書には、四つの短編が収められています。画家の身近にいた女性たちの目線からモネばかりでなく激動の時代を生きたマティス、ドガ、セザンヌの物語が紡がれます。元家政婦の修道女が色彩の魔術師・マティスの晩年を語る「うつくしい墓」、ドガと彫刻のモデルになった貧しい踊り子の話「エトワール」、画材屋の娘がセザンヌに父の思い出をしたためた手紙を送る「タンギー爺さん」、モネと家族の愛の物語「ジヴェルニーの食卓」の4編です。 本書は『読む絵画』と銘打たれていますが、美術史や評伝などからは見えてこない画家の息遣いが伝わってきます。小説だからこその虚実取り混ぜて画家たちを描く意図は成功を収めています。もう一つ、全体に漂うフランスの香り、空気感はとても良い味わいです。
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ただただ美しい
美を極めた巨匠たちの世界。ただただ美しい。取り巻く人々の心も美しい。
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