サラバ!(上)
西 加奈子
2014年10月29日
小学館
1,760円(税込)
小説・エッセイ
1977年5月、圷歩は、イランで生まれた。父の海外赴任先だ。チャーミングな母、変わり者の姉も一緒だった。イラン革命のあと、しばらく大阪に住んだ彼は小学生になり、今度はエジプトへ向かう。後の人生に大きな影響を与える、ある出来事が待ち受けている事も知らずにー。
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(無題)
圷歩(あくつ あゆむ)は、イランで生まれた。それから三十年余、本書は歩の半生を描く大河小説だ。母であるより女であることを優先するような女、それが歩の母であった。そんな母のもう一人の子供、歩の姉は母の愛を確認したくて大人を逆上させるような行いを日常のものとするが、姉の行為は母の眉をひそめる事はあっても、姉が母に抱きしめられることはなかった。仕事第一の父の四人家族のなかで、歩はできるだけ静かに目立たずに生きていく術を学ぶのだった。 家族ばかりか学校や少年たちが作り出す社会で、歩が最も感度を鋭敏に磨いていた感性は「怯え」であった。これによって彼は、常に危険を回避できた。自分をいないものにしたり、何より家族や他人と衝突することを上手に避けることができたのだ。しかし、それは時として卑屈さとなって表れるので、歩本人も恥ずべき事として自覚していた。それが端的に表れたのが、父の赴任先カイロでの地元の貧しい少年たちとの邂逅であった。歩は彼らとどう接して良いのかわからずに、つい曖昧な微笑を浮かべている卑屈な己を見出すのだった。 エジプトを訪れた事があれば、誰しもが感じることだと思う。先ずは、彼らの刺すような鋭い視線への恐怖だ。次は貧しさあるいは物乞いとの接し方に不安を感じるだろう。また、ムスリム独特の堂々と喜捨を求める彼らの態度にも違和感を覚えるはずだ。大人ですらそうなのだから、小学生の歩が戸惑いを覚えて当然であった。ましてや地元少年と親しくなるなど不可能と言って良い。ところが、奇跡が起きた。歩がカイロで出会った貧しい少年ヤコブ。ヤコブと歩は言葉が通じなくても、すべてを分かり合えるという不思議な経験をするのだった。2人の間の呪文が「サラバ!」であった。この魔法のような一言があれば、2人には言葉は必要なかった。 本書が直木賞受賞作品であることは、周知の事実である。もちろん僕が本書を読もうと思ったキッカケもそこにある。だから、僕は西加奈子の良い読者とは言えない。本作以前に読んだのは「ふくわらい」一作のみである。この小説はゲシュタルト崩壊を起こした女性が主人公であったが、本編に登場する歩の姉・貴子にも何かしら精神に病的なものを感じてしまう。いや、貴子はもとより歩の同性愛的傾向など、本作全編に人間精神の深部に巣食う禍々しさを暗示する何物かが埋め込まれているようだ。 エジプトでは大部分がイスラム教徒である。そしてごく一部にコプト教徒もいる。コプト教はローマカトリックから異端とされたキリスト教の一派である。カイロで親しくなったヤコブ少年がコプト教徒であった。そして歩が帰国後、背中に倶利伽羅悶々を背負った近所の面倒目の良い矢田のおばちゃんを教祖とする新興宗教までが現れるに及んで、本作における宗教の位置付けにスポットライトがあたる。貴子がこの新興宗教と深く関わり、教団で一定の役割りを果たすことになると、本作が描こうとする世界がボンヤリと予感できるような気がする。上巻を読み終わった段階では、この程度の感触である。
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野いちごちゃん
(無題)
10年後にもう一度読みたい。傑作だ。
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