サラバ!(下)
西 加奈子
2014年10月29日
小学館
1,760円(税込)
小説・エッセイ
本年度最大の衝撃と感動。 一家離散。親友の意外な行動。恋人の裏切り。自我の完全崩壊。 ひとりの男の人生は、やがて誰も見たことのない急カーブを描いて、地に堕ちていく。 絶望のただ中で、宙吊りにされた男は、衝き動かされるように彼の地へ飛んだ。
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本作は、人が生きる意味や生きる上で支えになるのは何か、に肉薄しようとした意欲作である。本書には幾つもの仮説が設定されている。先ずは「信じるものがあれば、人は生きられる」との仮説。この命題については、歩の姉・貴子の宗教遍歴で検証される。貴子の人生にとって重要な位置を占める矢田のおばちゃんの手になる神様「サトラコヲモンサマ」の実体が「チャトラの肛門」である事がおばちゃんによって明かされるに及んで宗教の力は否定された。平たい言葉で言えば「鰯の頭も信心から」だ。貴子が人としての健全さを取り戻したのは、ヨガによる身体内部からのエネルギーの発露としっかりとした体幹の育成であった。 貴子は歩に愛情に満ちた助言をする。「私の中に、それはいるのよ。私が、私である限り。私が信じるものは、私が決めるわ。あなたも、信じるものを見つけなさい。あなただけが信じられるものを。他の誰かと比べてはだめ。あなたはあなたなの。あなたは、あなたでしかないのよ。あなたが信じるものを、誰かに決めさせてはいけないわ」。この台詞には「信じるものがあれば人は人らしく生きられる。それを見つける旅が人生である」との思いが込められている。一方では「貴方は何を信じて生きているの。貴方の信じるものはそれほど揺るぎのないものなの?」と読者に鋭く迫っているようにも思える。本書で語られる物語では中東が重要な位置を占める。現在世界で起きている紛争でイスラム教が影響力を行使しているのは異論がないところだろう。ジハードとは一体何なのだろうか。また、旧約聖書ヨシュア記に述べられる異教徒の大量虐殺はなんなのだろうか、素朴な疑問として誰しもが思い浮かべる事だ。 もう一つ「人は幸せになるために生きる」との命題についてはどうだろうか。この仮説に対して著者が用意したのは、歩の両親の人生であった。幾つになっても貪欲に生を謳歌しようとする母親、そんな妻あるいは家族のためにストイックに生きて遂には出家する父親、両親の結婚には彼らの人生を左右する秘密があった。それはKさんの存在であったが、母親はKさんのためにも自分が幸せになる、とがむしゃらに生きた。一方で父親のその後の人生はKさんへの贖罪に費やされた。その結果は求めても求めても満足な結果を得られない母に対して、全てを投げ打って質素に生きる父親の心は静かな幸福感に満ちていた。こんな皮肉な展開をさらけ出すことで、作者は幸せとは何かと読者に問題提示している。 最後に歩のカタルシスについても触れておきたい。歩は小説を書く事でカタルシスを得る。そこに至るまで、歩の心に鬱々と沈殿した感情は、頭髪が徐々に抜けて薄くなる事に端を発する。禿頭が容姿を劣化させるとの思いは歩の心を疑心暗鬼にさせ、自ら世間を狭める結果を招いた。また、恋人や友人も失ってしまったのだ。職も友人も恋人までを失ってしまうキッカケが抜け毛だなんて、笑うのも馬鹿馬鹿しい思いがするが、案外こんなものなのかもしれない。歩が心の迷路から脱出できたのは、上巻に登場したヤコブとの再会であった。そこには少年時代と少しも変わらない心の交流があった。そして変わらぬ言葉「サラバ!」が。
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マサキチ黒
(°▽°)
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