こうふく あかの

39歳のサラリーマンが主人公。自分で言うのも何だが、仕事も順風満帆、部下からも慕われる完璧な人気者の上司である。従順で穏やかな美人な妻を持ち、何か足りない‥と言われれば、子供がいなかった。結婚生活が長くなるにつれ、妻の野暮ったいファッションや面白みのない会話や少々馬鹿なとこが目に付き始めたのがケチの付け所だったのかもしれない。そういうのは往々にしてあることだ、気にすることもない、逆に仕事が忙しい間に自分が火遊びすることすら思いもつかない凡庸な妻だから安心しきっていた。なのに‥。 「私、妊娠しました‥子供は悪くありません‥産もうと思います」と言われ、俺は盛大にコケ、狼狽し、思考停止になった。冷静沈着で完璧なはずの俺が、どーしてここまで動揺したのか。妻とはもう3年も何もなかったからである。 嫉妬なんて馬鹿げていて無益なものはない、常常そう思ってきた。「俺はお前の不貞など気にもしないうえその子を生むことを許しかつ自分が父親になろうとしている、この、心の、余裕を、人間の、大きさを、見よ」と、これ以上惨めにならないためにアピールしている、という、それも屈辱だ。 妻はただ自分に触れてほしかった、ただただ猛烈に愛しているのに俺が触れてくれないのに鬱々とし、ただただ欲しかっただけだった。旅行先バリ島で、誰ともしれない奴にヤラれた。でも心の底ではそうされる事を女としてずっとずっと望んでいた。 俺は妻を許せるのか?‥。 女性に立場と男性の立場から見るとずいぶん違うお話に見えるだろうと思う。仕事ができたのかもしれないけれど養ってやってる自分が居なければ生きていけないとか思ってるとこ、随分な旦那さんだなと思ったし、それでも愛して側に居続けた‥それ以外の道が選択できなかっただけかもしれないが‥奥さん。大切なものから、ただ居る、存在になってしまったときに、言い争いになってでも、喧嘩になってでも、一緒にキチンと向き合い考えるべきだったのかもしれませんね。その時はお互いに辛い時期かもしれないけれど、本心をぶつけ合えれないのでは絆は生まれないように思えます。 結末はどうしようもなく壊れて崩れてしまうのかと思ったけれど、何かが、二人を、守ったのだろう。キッカケがあったお陰で、惰性的な生活を続けていくよりも、二人はずっとずっと幸せになれたのかもしれない。 気がつくのが遅かった、もっと考えるべきだった、と後悔して足が止まるのであれば、歩みは遅くとも今からまた同じ方向を見て二人で歩き出すほうが良い結果を生みだすのだろうと思う。 自分自身で過ちに気がついたのなら、自分を褒めよう。褒めたら次に態度を改めよう。相手を慈しみ、これまで以上に大切にしよう。長い人生だから。許すことも必要なのだろう。それがたとえ難しいことであっても。夫婦のありようを考えさせられる一冊でした。

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