ようこそ、わが家へ

小学館文庫

池井戸 潤

2013年7月31日

小学館

764円(税込)

小説・エッセイ

真面目なだけが取り柄の会社員・倉田太一は、ある夏の日、駅のホームで割り込み男を注意した。すると、その日から倉田家に対する嫌がらせが相次ぐようになる。花壇は踏み荒らされ、郵便ポストには瀕死のネコが投げ込まれた。さらに、車は傷つけられ、部屋からは盗聴器まで見つかった。執拗に続く攻撃から穏やかな日常を取り戻すべく、一家はストーカーとの対決を決意する。一方、出向先のナカノ電子部品でも、倉田は営業部長に不正の疑惑を抱いたことから窮地へと追い込まれていく。直木賞作家が“身近に潜む恐怖”を描く文庫オリジナル長編。

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-- 2019年12月08日

池井戸潤「ようこそ、わが家へ」

港北ニュータウンに住む倉田は、銀行での出世コースからとっくに外れ、今はナカノ電子部品という会社に出向している。社内での立場は、総務部長である。過去何人もの出向者がナカノ電子部品から追い返されている。そんな難しい会社で倉田は、特に野心を持つでもなく、プライドを振りかざすでもなく、銀行員としてではなく、ナカノ電子部品の社員になろうと、日々努力をしていた。 ある日、ナカノ電子部品の経理関係一切を担う優秀な部下・西沢摂子が、倉田におかしなことを言ってくる。在庫が二千万円も合わないのだ、という。 ナカノ電子部品では、年に一回だった棚卸しを、毎月行うことにした。そこで発覚したのだ。すぐに営業部に確認に行くも、反りの合わない営業部長・真瀬にやり込められてしまう。 何かおかしい…。倉田はそう直感するが、ナカノ電子部品は営業部で回っているようなもので、また社長は真瀬を信頼している。なかなかどうすることも出来ない。 倉田にはもう一つ、どうすることも出来ないでいる事柄がある。 ストーカーだ。 代々木駅で、割り込みで車内に入り込もうとしてきた男を、温厚な倉田にしては珍しく注意した。その男が、倉田の住む港北ニュータウンの駅近くにおり、さらに同じバスに乗っているのだ。初めは、たまたま近くに住んでいるのか、と考えた倉田。しかし、そんなはずがないと思い直す。 こいつは、自分の後を尾けてきたのだ…。 どうにか男を撒き、自宅に戻った倉田。しかししばらくして、自宅に嫌がらせがされるようになり…。 というような話です。 まあ普通に読ませる作品、という感じでしょうか。 倉田家の騒動については、正直、そこまで面白いわけではないんですよね。家族それぞれのキャラクターは、それなりには描かれている。ただ、それなりなので、読んでいて惹き込まれるかというと、そうでもないんだよなぁ。妻も、息子も、娘も、まあよくある感じの家族というイメージ。家族の描かれ方も、割とみんな仲がいいし、家族間の軋轢みたいなものがあるわけではないし、みんなで一丸となってストーカーと戦おう!という前向きな部分しかないので、正直僕にはあんまり興味が持てなかった。もう少し家族内がゴタゴタしてたりとか、色んなところに軋轢があるとか、そういう家族の有り様だったら興味持てたかもしれないけど、なかなかそうはいかない感じで、そこが残念だったかな。 ストーカーの話は、本書の半分を占める、割とメインと言っていい話題なのだけど、正直、そこまで盛り上がるわけではない。色々やりはするのだけど、どうもインパクトというか、盛り上がりに欠けるかなぁ、という気がしてしまう。この家族の部分を一番に描きたかったのなら、その部分だけ抽出するような形で独立して書いた方が良かったと思う。正直、ナカノ電子部品内のゴタゴタと一緒に描かれるから、分量も多くなるし、あんまり家族の話が印象に残りにくいのではないかと思う。家族の話なら家族の話をメインで、ナカノ電子部品の話ならナカノ電子部品をメインに、という感じの方が良かったんじゃないかなぁ、という風に思いました。 ナカノ電子部品での話は一転、なるほどこれはなかなか面白いぞ、という感じの話です。 一番初めの発端は、二千万円の在庫が見当たらないこと。この、実に些細な出来事が、ナカノ電子部品の根幹を揺るがすような大きな問題に発展していくのだけど、この話はさすが池井戸潤という感じ、読ませます。 僕は池井戸潤の作品を凄くたくさん読んでいるわけではないのだけど、これまで読んだ感触では、「銀行員」というのはどちらかというと「敵」だったり「上から」だったりするような、そういう立ち位置の作品が多かったように思う。中小企業の社長が、都合のいい時ばっかり擦り寄ってくる銀行にイライラするとか、担保があれば融資するというような姿勢にイライラするとか、そういうどちらかというと「悪役」的な立ち位置で出てくる方が多いように思います。 ただ本書の場合、そのそも主人公が銀行員だし、さらに出世コースから外れているのにそれについて悔しいとか思うことはない、出向先の中小企業でもほどほどに巧くやれちゃうというような、僕がこれまで読んできた池井戸潤作品にしては、銀行の扱い方が非常に珍しいというような気がしました。 そんな、「立場の弱い銀行マン」っぷりは、あちこちで描かれ、部下の摂子に時折呆れられてしまう。ナカノ電子部品では営業部が強いため、明らかに倉田の言うことの方が筋が通っている事柄であっても、社長の一言で倉田の努力が報われなかったりする。そういう、小市民的銀行マンが主人公であり、それが池井戸潤らしくなくて面白いと思いました。 二千万円分の在庫が見当たらない、という問題は、少しずつ少しずつその穴を広げていき、その過程で倉田の中で警告ランプが点灯し続けることになる。立場の弱い銀行マンと、中小企業の中で絶大なる力を持つ営業部長。どんな結論に行き着くのか、そしてどんな過程を経てその結論に辿りつくのか。池井戸潤に経済小説的な作品を描かせたら天下一品だと思っているのだけど、本書でもそういう、銀行や中小企業に関わる部分は、非常に面白く読みました。 全体のバランスとしては、可もなく不可もなくという感じで、良い部分をあまり良くない部分で相殺しているような、そんな印象の作品でした。中小企業内部のゴタゴタはとても面白いのだけど、家族の部分はなかなか評価しにくい。これと言って突出した何かがあるわけではない家族のパートは、決して悪くはないんだけど、あまり良くもない。そういうわけで、全体としては、可もなく不可もなくという感じかなぁ、と思いました。

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みんなのレビュー (3)

taboke

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2.3 2020年03月12日

(無題)

二重のサスペンス。1冊で2度美味しい。

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Haba Masato

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3.8 2018年04月14日

(無題)

思わぬところに犯人が隠れているですね(>_<) 社会全体から見れば全員が名無しなのかもしれないですね

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とも

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3.5 2018年01月26日

(無題)

ほのぼのとしたホームドラマを思わせる書名とは裏腹に読者は、主人公の倉田とともに不気味な不安感に引きずりこまれます。池井戸の筆力は流石です。争いごとを嫌い、他人に迷惑をかけない事を信条とする市井の庶民が正体不明の悪意の標的となったとき、人は何ができるでしょうか。この物語は半沢直樹のように「倍返し」どころか、自分に理があっても相手にやり込められてすごすごと引き下がる情けなくも、誠実な男のお話です。 倉田は帰宅途中、駅のホームで無理やり割り込んできた男を注意しました。いつもなら見て見ぬふりをするところですが、娘と同年輩の若い女性が危険な目に会いそうなので、思わずとった行動でした。その日以来、倉田家には数々の嫌がらせが相次ぐのでした。妻が丹精込めた花壇の花が引き抜かれ、ポストに瀕死の猫が入れられ、息子の自転車が壊され、車に傷をつけられ、タイヤはパンクと言った被害です。そこで倉田家では家族一丸となって、犯人を捕まえようと策を練るのでした。 一方、倉田は、職場でも深刻な問題に直面していました。商品在庫の不一致、交通費の二重取り、あるはずのドリルがなく、ないはずのドリルがある不可思議な現象、巨額の入金漏れです。これらの事態には全て営業部長が絡んでおり、幾度となく倉田は彼を追及しますが、口八丁手八丁で逃げ回ります。 最終的に倉田は家族と総務部の部下の協力で理不尽な事態から脱することができます。ストーカーまがいの犯人を逮捕する決め手となったのは、自宅に設置した防犯カメラの映像でした。「ようこそ我が家へ」とは、防犯カメラに映し出された犯人への皮肉なメッセージだったのでしょうか。

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