あぶない一神教
小学館新書
佐藤 優 / 橋爪 大三郎
2015年10月1日
小学館
858円(税込)
人文・思想・社会 / 新書
9・11テロから「イスラム国」誕生まで。キリスト教世界とイスラム教世界の衝突が激しさを増している。だが、歴史を遡れば、両宗教は同じ「神」を崇めていたはず。どこで袂を分かち、何が異なり、なぜ憎しみ合うのか。社会学者・橋爪大三郎氏と元外務省主任分析官・佐藤優氏が「世界の混迷」を解き明かす。
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(無題)
この二人の対談に触れて、僕の頭の中はアメリカ寄りにバイアスがかかっていたなぁ、と改めて実感した次第である。例えば、イスラムに対して感じる薄気味悪さ。原理主義に対する嫌悪感である。これどこからもたわされたのか。ことはたとえ信仰の問題であっても、他の宗教を信じることへの寛容さがなくてはならない。だから、己のみを絶対視するイスラム原理主義はいけない。従ってリベラルを以て任じる私たちの社会はムスリムに寛容ではあるが、テロ行為に走る原理主義とは徹底的に戦う、としたり顔で言う。この態度は、実は西欧キリスト教文明からの一方的見方に過ぎないことを本書によって気づかされた。 アメリカはプロテスタントによって建国された人工的宗教国家である。だから、アメリカンスピリットは独立宣言に集約され、アメリカ人は国家を拠り所としている。そもそも、国民国家はヨーロッパキリスト教文化圏で誕生したものである。これに対してイスラムは、発生時点から世界的なイスラム共同体を目指しているので、もともと国家の概念を持たない。国家の枠組みを簡単に飛び越えてしまうムスリムがアメリカにとって、脅威に映るのは当然といえよう。また、原理主義の概念もムスリムには通用しない。なぜなら、原理主義はキリスト教の概念だからだ。聖書には旧約、新訳、黙示録、各種福音書が収録されている。これらはいろいろな立場で神の言葉を伝えている。それらは矛盾していることもあるので、聖書の言葉そのままを文字通りに信じるのは危険性が伴う。それを原理主義として戒めているのだ。ところがコーランはムハンマドが聞いた神の言葉そのものが収録されているので、ムスリムにはコーランそのものが絶対なのだ。つまり、ムスリムには原理主義以外にありようがないのだ。 こう書いてくると、大体の日本人の反応は「だから宗教は怖い、やはり無宗教や多神教がいいね」となる。しかし、これはじつに浅薄な理解の仕方だ。何故なら、それは日本人の殻の中に逃げ込んでいるだけだからだ。世界の現実は、恐ろしいと感じる一神教をベースにする文明の衝突だからだ。実に厄介で先行きを見通すのは、不可能に思えるが、やはり知ることが第一歩なのだろう。 本書では、一神教が危ないと論じる一方で、一神教にもとづいて営まれている世界と異質な日本の危うさも指摘している。
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