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学問
新潮文庫 新潮文庫
山田 詠美
2012年3月31日
新潮社
737円(税込)
小説・エッセイ / 文庫
東京から引っ越してきた仁美、リーダー格で人気者の心太、食いしん坊な無量、眠るのが生き甲斐の千穂。4人は友情とも恋愛ともつかない、特別な絆で結ばれていた。一歩一歩、大人の世界に近づく彼らの毎日を彩る生と性の輝き。そして訪れる、それぞれの人生の終わり。高度成長期の海辺の街を舞台に4人が過ごしたかけがえのない時間を、この上なく官能的な言葉で紡ぐ、渾身の長編。
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(無題)
山田詠美を今まで何故読まなかったかといまえば、かつての話題作『ベッドタイムアイズ』を読んで、そのあまりのエロチックさに辟易した思いがあったからだった。先日、「僕は勉強ができない」を読んで、エロいことはエロいがそれ以上のものが秘められていることに気が付いたのだ。それで、本作である。相変わらずのエロさである。女性の自慰をここまで赤裸々にさらけ出した作品は、他に見当たらないだろう。 昨日の新聞各紙に白川由美さんの訃報が掲載された。改めて死亡記事を読むと、白川さんがどんな人物であったか、どんな仕事をしたのかが、実にコンパクトにまとめられている。本作には五本の死亡記事が掲載されている。そして、その五人の小学校2年生から高校生までの物語が語られる。5人とは東京から引っ越してきたフトミこと仁美、リーダー格で人気者のてんちゃんこと心太、食いしん坊なムリョこと無量、眠るのが生き甲斐のチーホこと千穂、そしてモコこと素子である。 死亡記事から、この5人がどのような死に方したのかを紹介しておこう。先ずは、香坂仁美(フトミ)(68)。高校教師を定年まで勤め上げて、退職後も香坂スクール開校。喪主は同居の男性(37)。この男が何者であるかは、最後まで明かされない。次いで長峰無量(ムリョ)(102)。父の跡を継いで長峰医院院長。地域の名士。子供の頃からの食いしん坊が高じてグルメで著名。坂本千穂(チホ)(18)は、居眠り名人。川の増水に気がつかず河原で寝ていたところを水に流され水死。長峰素子(モコ)(81)。ムリョが病院の跡取り息子であることを知って、自分の夢を実現させるためにムリョとの結婚を宣言。読書家の夢、私設文庫を実現。そして山本心太(テンちゃん)(36)。チーホを偲ぶ会で泥酔し車にはねられ死亡。幼子を残しての死であった。そしてその子の名前は、フトミの葬儀に喪主を務めた男性と同じであった。 てんちゃんの死は、単なる事故であったのであろうか。てんちゃんは、望むものは何でも手にする事ができた。地元大学の助教授となり、妻と愛児に囲まれたてんちゃんは、何故泥酔する迄酒を飲んだのだろうか。遺児を引き取ったフトミは、なぜ生涯独身を貫いたのだろうか。フトミはこの遺児の単なる育ての親に過ぎなかったのだろうか。何やら、次々と新しい物語が読者によって生み出されそうだ。その意味ではこの小説の構成は成功していると言えよう。
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