砂の女
新潮文庫 あー4-15 新潮文庫
安部 公房
1981年2月27日
新潮社
781円(税込)
小説・エッセイ / 文庫
砂丘へ昆虫採集に出かけた男が、砂穴の底に埋もれていく一軒家に閉じ込められる。考えつく限りの方法で脱出を試みる男。家を守るために、男を穴の中にひきとめておこうとする女。そして、穴の上から男の逃亡を妨害し、二人の生活を眺める部落の人々。ドキュメンタルな手法、サスペンスあふれる展開のなかに、人間存在の象徴的な姿を追求した書き下ろし長編。20数ヶ国語に翻訳された名作。
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閉塞的で逼迫感があり、厭世観をつついてくる恐ろしい小説
starstarstar 3.0 2023年07月18日
部落が崩れないために毎日砂を掻いて、その砂を外部に売り、資金を得て、そのお金で必要最低限の生活をしている人々がいる。
そこに一般社会で働いている昆虫採集が趣味の論理的で頭脳明晰な男性が強制的に住まされ、どのような想いをもって適応していくかという話。
ひたすら理不尽で窮屈で閉塞的な描写が多く、何不自由ない現代に生きている自分からしたら、不安に耐えきれず、苛立ち、焦燥感が募り、ストレスが溜まる。もちろんこの感情は、自分と同じ立場であった主人公に感情移入しているからこそ生じる物語への投影で芽生えた気持ちで、ストレスを感じるのにも拘らず、次の展開が気になり読み続けてしまうというのは、それだけ素晴らしい小説である。
この小説を解釈をするには幾分考え込まなければならない描写が多すぎる故に、一度サラッと読んだ程度では理解できないことが多すぎるのだが、焦点を当てるとすれば、①砂が何を示しているのか②なぜ主人公は逃げ出すことを自主的にやめたのか、になるだろう。
①砂は絶えず動き回っているものであり、実は流動そのものが砂である、と本書は砂を定義していた。つまり砂という限りない小さな粒子を、自分では制御不可能なほど壮大な存在として位置付けている。部落では砂をかかないと家が崩れるし、砂により病気になるし、砂により金銭を得ている。その砂の理不尽な存在に圧倒され続け、閉塞的な生活を強いられている。主人公は砂に固執して生活を馬鹿げていると否定して、部落を抜け出して外で暮らせばいいし、外の世界にはもっと自由でやりがいのある仕事や生活があると考える。しかし部族の人にはこの考えは通用しない。現実的に考えれば、主人公の考えは至極真っ当である。しかし、ここでいう砂は、あくまでも抽象的表現に過ぎず、その実、現実世界の逼迫感を具現化しているのだ。これが②の解釈へとつながっていく。
②主人公は外の世界での生活について思い馳せるシーンが幾つかある。教師の仕事、あの人に対する想い、知人との会話などから彼の厭世的な思考が垣間見える。自己不全感、空虚感に対して、一縷の望みをみつけるために、昆虫採取に尽力し、史上初の発見をすることで自身の名前を世の中に半永久的に残すことで、生きている理由を合理化しようとしている。実はあれだけ焦がれている外の世界に、主人公は意義を見出せていないのだ。部落では砂という具象化された逼迫感を、外の世界では言語化できない何かに押しつぶされて生きている。部落は、外の世界をミニマムにした世界観にすぎないことに徐々に気づいていく。それどころか、部落自体が物事の構図を単純化しているため、気持ちの整理に一役買っている。外の世界では昆虫採取であった生きる意味の合理化が、部族では溜水装置へと置換されている。結局、彼は部落の生活に順応して、逃げることよりも留まることを選んでいる。彼の厭世的な思想が、砂という流動的だが、実に閉塞的で停滞している部落の生活の中で次第に顕現化していったのだ。
この本を読むと、あまりに焦ったくなる。
その理由は、冒頭に書いたよう、主人公に感情移入することで、自身の不安を感じ、心揺さぶられるからだ。これは自身の性格に由来する。自分は、絶えず何か刺激を求める、ある意味病的な性格である。所謂、マニー新和型性格という、停滞と閉塞を忌避する心性がある。主人公が昆虫採取に人生の希望を見出すように、自分もこの退屈な人生に刺激を求めて、本書を読んだり、音楽を聴いたり、スポーツチームを応援したり、自分の付加価値を高めるために勉強をしたりしている。つまり、根底には、平凡で退屈な生活に憂いているところがある。
その辛さをこの本らより強く刺激する。現実社会を砂という具象化を用いて、ミニマムにして、抽出し、色濃くしたこの厭世的な世界観に、とんでもない嫌気を感じてしまう。例えば数十年後にこの本を再度読んだ時、反発心を覚えるのか、それとも親和的に感じるのか、どうなんだろうか。
反骨心を覚える時は、厭世的な気持ちを認めず、人生に抗う自分がいるのだろうか。親和的に感じる場合は、人生に対して諦念してしまっているのか、はたまた超越して俯瞰して小説を読んでいるのか。それともこの本自体を厭世的と捉えない、違う感性が磨かれているのか。
小説としては、あまりにも深いため最高級の評価をしたいが、個人的には非常に疲れたので3点とした。
進んで純文学を読んでおいて、両価的であるが、もっと思考停止して過ごす時間も必要。
このレビューはネタバレ要素を含みます全て見る
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閉塞的で逼迫感があり、厭世観をつついてくる恐ろしい小説
starstarstar 3.0 2023年05月09日
部落が崩れないために毎日砂を掻いて、その砂を外部に売り、資金を得て、そのお金で必要最低限の生活をしている人々がいる。
そこに一般社会で働いている昆虫採集が趣味の論理的で頭脳明晰な男性が強制的に住まされ、どのような想いをもって適応していくかという話。
ひたすら理不尽で窮屈で閉塞的な描写が多く、何不自由ない現代に生きている自分からしたら、不安に耐えきれず、苛立ち、焦燥感が募り、ストレスが溜まる。もちろんこの感情は、自分と同じ立場であった主人公に感情移入しているからこそ生じる物語への投影で芽生えた気持ちで、ストレスを感じるのにも拘らず、次の展開が気になり読み続けてしまうというのは、それだけ素晴らしい小説である。
この小説を解釈をするには幾分考え込まなければならない描写が多すぎる故に、一度サラッと読んだ程度では理解できないことが多すぎるのだが、焦点を当てるとすれば、①砂が何を示しているのか②なぜ主人公は逃げ出すことを自主的にやめたのか、になるだろう。
①砂は絶えず動き回っているものであり、実は流動そのものが砂である、と本書は砂を定義していた。つまり砂という限りない小さな粒子を、自分では制御不可能なほど壮大な存在として位置付けている。部落では砂をかかないと家が崩れるし、砂により病気になるし、砂により金銭を得ている。その砂の理不尽な存在に圧倒され続け、閉塞的な生活を強いられている。主人公は砂に固執して生活を馬鹿げていると否定して、部落を抜け出して外で暮らせばいいし、外の世界にはもっと自由でやりがいのある仕事や生活があると考える。しかし部族の人にはこの考えは通用しない。現実的に考えれば、主人公の考えは至極真っ当である。しかし、ここでいう砂は、あくまでも抽象的表現に過ぎず、その実、現実世界の逼迫感を具現化しているのだ。これが②の解釈へとつながっていく。
②主人公は外の世界での生活について思い馳せるシーンが幾つかある。教師の仕事、あの人に対する想い、知人との会話などから彼の厭世的な思考が垣間見える。自己不全感、空虚感に対して、一縷の望みをみつけるために、昆虫採取に尽力し、史上初の発見をすることで自身の名前を世の中に半永久的に残すことで、生きている理由を合理化しようとしている。実はあれだけ焦がれている外の世界に、主人公は意義を見出せていないのだ。部落では砂という具象化された逼迫感を、外の世界では言語化できない何かに押しつぶされて生きている。部落は、外の世界をミニマムにした世界観にすぎないことに徐々に気づいていく。それどころか、部落自体が物事の構図を単純化しているため、気持ちの整理に一役買っている。外の世界では昆虫採取であった生きる意味の合理化が、部族では溜水装置へと置換されている。結局、彼は部落の生活に順応して、逃げることよりも留まることを選んでいる。彼の厭世的な思想が、砂という流動的だが、実に閉塞的で停滞している部落の生活の中で次第に顕現化していったのだ。
この本を読むと、あまりに焦ったくなる。
その理由は、冒頭に書いたよう、主人公に感情移入することで、自身の不安を感じ、心揺さぶられるからだ。これは自身の性格に由来する。自分は、絶えず何か刺激を求める、ある意味病的な性格である。所謂、マニー新和型性格という、停滞と閉塞を忌避する心性がある。主人公が昆虫採取に人生の希望を見出すように、自分もこの退屈な人生に刺激を求めて、本書を読んだり、音楽を聴いたり、スポーツチームを応援したり、自分の付加価値を高めるために勉強をしたりしている。つまり、根底には、平凡で退屈な生活に憂いているところがある。
その辛さをこの本らより強く刺激する。現実社会を砂という具象化を用いて、ミニマムにして、抽出し、色濃くしたこの厭世的な世界観に、とんでもない嫌気を感じてしまう。例えば数十年後にこの本を再度読んだ時、反発心を覚えるのか、それとも親和的に感じるのか、どうなんだろうか。
反骨心を覚える時は、厭世的な気持ちを認めず、人生に抗う自分がいるのだろうか。親和的に感じる場合は、人生に対して諦念してしまっているのか、はたまた超越して俯瞰して小説を読んでいるのか。それともこの本自体を厭世的と捉えない、違う感性が磨かれているのか。
小説としては、あまりにも深いため最高級の評価をしたいが、個人的には非常に疲れたので3点とした。
進んで純文学を読んでおいて、両価的であるが、もっと思考停止して過ごす時間も必要。
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不気味
有名な本と聞いて。 不気味ですが発想が面白い。どこぞの北朝鮮を思わせる閉鎖空間。 今の情報化時代じゃ現実味がないけど、当時〜数年前くらいなら、こんな村どっかにあってもおかしくないぞ、っていうワクワク感?みたいなものも同時に体験できたのだろうか。
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