芽むしり仔撃ち

初期の大江健三郎の3作品目。相変わらず堅実で荘重な文章に恍惚感を覚える。戦争、権威的な大人、世間から隔離された排他的で退廃的な文化が中心で飼育と類似している部分が多かった。 まだ子供である主人公が非力な自分に苛まされる場面の描写は圧巻であった。私自身もやるせなさを感じ、自分が子供だった頃に圧倒的な力、暴力の前に為す術なく屈服した表象が脳裏に浮かび、悔しさを思い出した。暴力を肯定する訳ではないが、男児の世界では暴力的な強さに頼らざる終えない時があるのは確かであった。大人になった今では、正統的に生きていたら暴力など無用の長物で、主従関係には地位、お金等が占めており、そこに抗いつつ生きているわけである。この作品は退廃的な文化のため、暴力が人を支配していた。そんな中で主人公は大人からの暴力的な支配に対して精神的強さで抗った。彼の気質に加えて、弟や初恋の喪失といった環境因子が彼の大人への反抗、人としての矜持を促進させていた。結局彼が逃げ切れたかは不明であるが、彼の生き方、心理学者フランクルでいう態度価値に感動した。 「お前のような奴は、子供の時分に締め殺したほうがいいんだ。出来ぞこないは小さいときにひねりつぶす。俺たちは百姓だ、悪い芽は始めにむしりとってしまう」、村長が主人公に述べた内容であり、題名に繋がっている。芽をむしるように子供を撃つ。

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