個人的な体験

同じくノーベル文学賞を受賞した川端康成が美しい憧憬文章を書くのに対して、大江健三郎は荘厳で堅実な文章を書く。右脳の川端康成、左脳の大江健三郎といった印象を受けた。 また表情などの表出を捉える書き方は精神科医のカルテと親和性が高く、個人的にとても参考になる。 個人的な体験は、私小説ではないが大江健三郎が知的障害の息子を持ったことによる苦悩葛藤を描いた作品だろう。 障害を負った子供を受け入れた結末を選択したことは、自身の気持ちを整理し浄化する目的があったのだろうか。物語としては、見殺しにしようとしていたのにも関わらず、突然息子を助けたのは、矢庭すぎたように感じた。鳥はマニー新和型性格（刺激を求める心性。それ故に自分を縛りつける要因にストレスを感じやすい）で回避性愛着スタイル（責任を持ちたくない心性。それ故に人間関係が希薄で自己中心的になりやすい。繊細で脆く自己愛が強い。）の傾向をもつので、閉塞的な空間を忌避し、責任を持ちたくないため、普通の子供ですら受け入れることが難しいはずなのに、知的障害になる可能性がある子供を受け入れたことは、性格の大きな変曲点となっている。逃げ続け、葛藤し、自己欺瞞に苛まれたことで、最後の最後に、彼は逃げずに正統的な人生を送ることが正しいという考えに至った。 人間、考えが突然180度変わることは往々にしてあると考える。なんとかなく啓示を受けたかのように、人間、はっと気づくタイミングが突然来るものだ。だからこそ、自分は「本当に大事なことに気づく時は、不意に訪れる。いつもと違った考え方、穿った見方は突然訪れるもの。そう思えた瞬間を見逃さず、自分を変えればいい」と常々考えている。 そのため、突然の鳥の行動の変化に大きな混乱を覚えなかった。 この変曲点を境に、大人へと成長したことで、義父に、鳥という子供っぽい渾名を似合わないと指摘された。回避性愛着スタイルを脱却し、面倒ごと、自分の責任から逃げない人に成長したのだ。飼育と同様、主人公の青年から大人への成長を描いた作品であった。

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