死ぬことと見つけたり 下

新潮文庫 りー2-9 新潮文庫

隆 慶一郎

2007年9月30日

新潮社

781円(税込)

小説・エッセイ / 文庫

鍋島藩に崩壊の兆しあり。藩主勝茂が孫の光茂を嫡子としたためだ。藩内に燻る不満を抑え切るには、光茂では器量が小さすぎた。老中松平信綱は、不満分子と結び、鍋島藩解体を画策する。信綱の陰謀を未然に潰そうと暗躍する杢之助たち。勝茂は死に際し、佐賀鍋島藩存続のため信綱の弱みを掴め、と最期の望みを託した。男の死に方を問う葉隠武士道をロマンとして甦らせた時代長編。

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Readeeユーザー

(無題)

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3.5 2018年01月27日

死を覚悟した人間ほど恐ろしいものはない。日々の覚悟の積み重ねと胆練とで常在戦場の心構えが出来上がっている杢之助を敵に回したら、こんな厄介な敵はない。失うことを恐れない、或いは普段から失うものを持とうとしない杢之助にとって、相手がたとえ藩主であっても容赦はしない。封建領主と主従関係を結んだ武士に多く見られる小役人根性と最も遠い所に位置している杢之助は、藩主に「佐賀は殿のものですか」「佐賀は領民のものですか」と平然と迫る。そして「佐賀はまた、この土地で生き、この土地で死んだ死人たちのものである」「今現在いる者たちが勝手にしていい土地では無い」という。こんな武士は私たちが抱く武士のイメージからは、完全に逸脱している。葉隠武士にして始めてあり得ると納得できる。 欲得から最も遠い所にあるものを価値判断の基準にする男を多少とも漢気のある男たちが棟梁と仰ぐのも当然のことである。杢之助は佐賀鍋島藩浪人武士団の押しも押されぬ首領となった。著者は才気溢れる人物より腹の座った人徳に満ちた人物が好きなのだろう。そんな所が本書執筆の動機なのかもしれない。 葉隠精神を貫き突き抜けた思想は、現代の国民国家に生きる我々の政治思想に問題提起を投げかけるようで、本作にエンタテインメント以上の深みを与えているように思える。 著者の作家人生はわずか10年に満たない期間であり、本書が絶筆となったことを知らずに読み始めてしまった。

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Readeeユーザー

(無題)

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4.8 2022年12月15日

久しぶりの隆慶一郎。 やはり面白い。残念ながら筆者の死により未完となった書であるが、痛快かつ意味荒唐無稽なエンターテイメントの中に筆者の信念のようなものが貫かれている。 他の作品にも通じるその信念は、この本のエピローグに書かれている筆者の戦争体験からきたものと納得した。 つまり日本を敗戦に追い込んだ教条主義、エリート達の官僚主義、形式や前例を重んじる保守的な行動様式への強烈なアンチテーゼこそ隆慶一郎の信念だとやっと確信できたのだ。 したがって彼の描くヒーロー達はこの作品の斎藤杢之助のように例外なく規格外の「いくさ人」であり徹底した自由人である。対する敵役は、この作品なら松平信綱のような権力を嵩に弱者を抑圧するエスタブリッシュとなるのである。 そんな理屈はさておき1話1話が爽やかで深い余韻を残す極上の歴史伝奇小説の傑作であることに間違いはない。

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