本屋さんのダイアナ
新潮文庫
柚木 麻子
2016年6月28日
新潮社
781円(税込)
小説・エッセイ / 文庫
私の名は、大穴。おかしな名前も、キャバクラ勤めの母が染めた金髪も、はしばみ色の瞳も大嫌い。けれど、小学三年生で出会った彩子がそのすべてを褒めてくれたー。正反対の二人だったが、共通点は本が大好きなこと。地元の公立と名門私立、中学で離れても心はひとつと信じていたのに、思いがけない別れ道が…。少女から大人に変わる十余年を描く、最強のガール・ミーツ・ガール小説。
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(無題)
柚木麻子は人気の高い作家である。たぶん同世代女性の支持を集めているのだろう。なぜなら、柚木の作品には、作者の肌感覚が見事に言語化されている、と感じるからだ。そこを同世代の女性読者が「うん、わかる。わかる」と頷きながら読んでるいる姿が眼に浮かぶのである。僕のような爺読者はどう読むかと云えば、共感しながら読むのではなく「時代はこのような感覚の人々によって造られていくのか」との興味がベースにあるのだ。もちろん、小説としての面白さがなければ読み重ねることはできないわけで、その意味では作者の小説は高い水準にあると言える。ただ、これまで僕が読んだ柚子の作品には、「あれ、これでおしまい?」みたいな肩透かし感が残ったものだった。ところが本作にはそれがない。四つに組んだ横綱相撲を見るようだった。それだけ完成度が高くなっているのだろう。ラストは感動の連続で、落涙を抑えることは不可能だった。 大穴と書いてダイアナ。この本は矢島ダイアナと神崎彩子の物語である。ダイアナはいつもからかいの対象となる自分の名前に劣等感を持っていた。しかし、彩子は違った。「変な名前じゃない。アンの親友はダイアナって言うんだよ」とかばったのだった。そう、この物語は「赤毛のアン」を現代に甦らせた一書だったのである。友情や親子、そして恋愛といった愛情を現代風に、また照れずに伝えてくれる良書である。 もう一つ、この作品に込められた大切な作者からのメッセージ。それは自分を解き放つことができるのは自分だけだ、との励ましだ。ダイアナと彩子は20代前半でこのことに気づいて本来の自分を取り返してその後の自由な人生を予感させる。自分を狭い世界に閉じ込めてしまう呪いとは、何であろうか。それは、社会と自分との相対的関係の中でいつの間にか生じていたセルフコントロールと言える。社会人である限り、セルフコントロールと無縁な立場に自らを置くことは不可能である。しかしながら、自分がしたいのは何なのか、裸の自分を見つめるところから、自由であることや本来の居場所を見つけ出すことができるのだろう。全ての女性にエールを送る書である。
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