隠された十字架

法隆寺論

新潮文庫

梅原 猛

2003年4月30日

新潮社

1,100円(税込)

人文・思想・社会 / 文庫

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法隆寺は聖徳太子一族の鎮魂の寺。飛鳥から奈良にかけての権力闘争と法隆寺建立の謎が語られる。

starstarstarstarstar 5.0 2021年01月30日

 年末年始の休暇で読もうとページを繰ったが、読み応えのある内容(日本史の知識が乏しいため、ネットや文献で登場人物や寺を調べながら読んでしまい)で読了までに時間がかかってしまった。しかし面白かった。古文書を紐解きながら、歴史的背景や建築、美術など幅広い視点で法隆寺の謎を論じているのである。  簡単にいうと、現在存在する法隆寺は和銅4年(711年)に再建されたもの(従来の説は、推古15年西暦607年に聖徳太子が建立した)で、聖徳太子一族の鎮魂のための寺であるというのが主旨だ。中臣氏(後の藤原氏)の暗躍によって、蘇我氏と繋がりの濃かった聖徳太子の一族が抹殺され、最終的に蘇我氏も全滅に追い込まれた。そして大化の改新、壬申の乱と続き、最終的に中大兄皇子と中臣鎌足に権力が集中し、彼らの血筋が続いていくのである。死屍累々の犠牲の上に成り立った地位に安住する一方、祟りを恐れた天皇と藤原一族は、祟りを鎮めるために法隆寺を建立したというのだ。  一番ゾッとしたのは夢殿についての考察だ。八角形の堂は墓として多数存在しているが、夢殿は八角形なのだ。そして、その中には有名なあの救世観音が納められている。救世観音は聖徳太子を模した仏像だと言われているが、この仏像は普通の仏像ではない。通常、光背(仏像から発せられる背後の光を表現した板)は支柱がついているか、別に台座に作られるが、救世観音は後頭部に大きな釘で直接打ち込まれているのである。このような例は他にあまりなく、その上この観音は布でぐるぐる巻にされ、布を外すと天変地異が起こるから絶対に人目に晒してはならないという言い伝えがあった。これは呪詛だと筆者は言う。呪いの人形は人目に触れてはならない。何と聖徳太子一族を抹殺した藤原の血を引く人々が祟りを恐れ、聖徳太子の仏像を作りそれを呪詛し封じ込めたのが救世観音とその入れ物(墓)の夢殿だと筆者は述べる。  この文庫本は、昭和56年に発行されている。今から40年前だ。それから研究も進んだだろうから、本書に書かれている内容が真実ではないことも考えられる。関連書籍を探そうと思う。  ところで当時の最高権力者たちに、それほどまでに恐れられていた聖徳太子とはどのような人物だったのだろうか。(最近、聖徳太子は実在しなかったのではないかという論があるときくが、この本を読むと決してそのようには思えない。)日本書紀に書かれているような高潔な人物だったのだろうか。  何と梅原猛氏の書いた「聖徳太子」という4部作があるそうだ。買ってしまいそうだ。

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