
きことわ
新潮文庫
朝吹 真理子
2013年7月29日
新潮社
539円(税込)
小説・エッセイ / 文庫
貴子(きこ)と永遠子(とわこ)。葉山の別荘で、同じ時間を過ごしたふたりの少女。最後に会ったのは、夏だった……。25年後、別荘の解体をきっかけに、ふたりは再会する。ときにかみ合い、ときに食い違う、思い出。境がゆらぐ現在、過去、夢。記憶は縺れ、時間は混ざり、言葉は解けていくーー。やわらかな文章で紡がれる、曖昧で、しかし強かな世界のかたち。小説の愉悦に満ちた、芥川賞受賞作。
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(無題)
第144回芥川賞受賞作品。タイトルは、二人の主人公の貴子(きこ)と永遠子(とわこ)からと想像できます。少女時代に二人が過ごした濃密な時間が、永遠子の夢として読者に提示されながら、25年後の思い出の別荘を処分することとなった二人におとずれた再会の時間が重ねられていきす。 終始、夢の中の時間にあり続けているような、浮遊し続けているような不思議な作品でした。永遠子の夢と、夢ではない確かな25年後の現実が織り交ぜられているようでありながら、現実と思われる時間軸の中でも、ありえないような目撃情報のエピソードがあったり、さっきまで満月だった月が新月になっていたりと、説明のつかない不思議なことが、当たり前のようにサラリと書き込まれていきます。また、永遠子が古生代の生き物に興味をひかれる人物なのも象徴的で、大きなとてつもない時間だけがそこにあるような気もしてきて、どこまでが現実なのか、作者は現実的な何かを描くつもりがあるのか…、いったい何を…と引きずられながら読んでいったような読書体験でした。 中でも特に気になり続けたのが、髪を何かに強く引っ張られる感覚が三度も描かれているところです。 ・少女時代の貴子が、屋根瓦から落ちそうになった時、頭髪の痙られた感触が残るくらい強く引っぱられた。 ・廊下で本を運んでいた貴子の頭髪が、なにかに引きつかまれ、廊下の闇へと引っ張られ、闇にもっていかれそうになり、何とか振りほどいた。 ・帰り道の永遠子が、突然遮断機の前で髪の根がひきつかまえられて、ぐらりと後ろに倒れた。 二人ともに、髪を引っ張られてその後尻もちをついているのですが、彼女らを引っぱったものが何だったのか明かされることはなく、(作品全体が夢のような漠然としたものであるならば、回収する必要もないのでしょうが、夢ならばなおさらに、)このしっかりと残る感覚が何なのか、気になって仕方がなくなりました。きっと、25年前の夏の二人が、身長も髪の長さも同じくらいで、後ろからは見分けがつかず、お互いの髪をとかそうとすると、よくからませていたり、背中合わせで眠る二人の髪と髪が、ひとつなぎの束のように見えたとの髪の描写が印象的だったりしたので、「後ろに引っ張られる髪」に意味があるように感じてしまったのかもしれません。ともかく、読者としては(も!?)、後ろ髪を引かれるような感覚を残された作品でしたが、もしかすると朝吹さんは、この答えのない感覚を描こうとしていたのかもしれません。
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(無題)
第144回芥川賞受賞作品。タイトルは、二人の主人公の貴子(きこ)と永遠子(とわこ)からと想像できます。少女時代に二人が過ごした濃密な時間が、永遠子の夢として読者に提示されながら、25年後の思い出の別荘を処分することとなった二人におとずれた再会の時間が重ねられていきす。 終始、夢の中の時間にあり続けているような、浮遊し続けているような不思議な作品でした。永遠子の夢と、夢ではない確かな25年後の現実が織り交ぜられているようでありながら、現実と思われる時間軸の中でも、ありえないような目撃情報のエピソードがあったり、さっきまで満月だった月が新月になっていたりと、説明のつかない不思議なことが、当たり前のようにサラリと書き込まれていきます。また、永遠子が古生代の生き物に興味をひかれる人物なのも象徴的で、大きなとてつもない時間だけがそこにあるような気もしてきて、どこまでが現実なのか、作者は現実的な何かを描くつもりがあるのか…、いったい何を…と引きずられながら読んでいったような読書体験でした。 中でも特に気になり続けたのが、髪を何かに強く引っ張られる感覚が三度も描かれているところです。 ・少女時代の貴子が、屋根瓦から落ちそうになった時、頭髪の痙られた感触が残るくらい強く引っぱられた。 ・廊下で本を運んでいた貴子の頭髪が、なにかに引きつかまれ、廊下の闇へと引っ張られ、闇にもっていかれそうになり、何とか振りほどいた。 ・帰り道の永遠子が、突然遮断機の前で髪の根がひきつかまえられて、ぐらりと後ろに倒れた。 二人ともに、髪を引っ張られてその後尻もちをついているのですが、彼女らを引っぱったものが何だったのか明かされることはなく、(作品全体が夢のような漠然としたものであるならば、回収する必要もないのでしょうが、夢ならばなおさらに、)このしっかりと残る感覚が何なのか、気になって仕方がなくなりました。きっと、25年前の夏の二人が、身長も髪の長さも同じくらいで、後ろからは見分けがつかず、お互いの髪をとかそうとすると、よくからませていたり、背中合わせで眠る二人の髪と髪が、ひとつなぎの束のように見えたとの髪の描写が印象的だったりしたので、「後ろに引っ張られる髪」に意味があるように感じてしまったのかもしれません。ともかく、読者としては(も!?)、後ろ髪を引かれるような感覚を残された作品でしたが、もしかすると朝吹さんは、この答えのない感覚を描こうとしていたのかもしれません。
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踊場
地層
夢を見ている様な、その細部は境目が曖昧で、時空間がなくなるような錯覚を受ける。二人の主人公の境目が無くなっていくような表現やタイトルもこの夢のような状況を支えている。更にそれらが情景は地層の用に繰り返され積み重なっていることによりあとがきにも出たような脈絡と夢の同居が可能になっているのかと思う。
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