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ドルチェ
新潮文庫 新潮文庫
誉田 哲也
2014年5月28日
新潮社
649円(税込)
小説・エッセイ / 文庫
元捜査一課の女刑事・魚住久江、42歳独身。ある理由から一課復帰を拒み、所轄で十年。今は練馬署強行犯係に勤務する。その日、一人の父親から、子供が死亡し母親は行方不明との通報があった。翌日、母親と名乗る女性が出頭したが(「袋の金魚」)。女子大生が暴漢に襲われた。捜査線上には彼女と不倫関係の大学准教授の名も挙がり…(「ドルチェ」)。所轄を生きる、新・警察小説集第1弾。
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(無題)
女性刑事が主人公でも、姫川シリーズとはまたひと味ちがいますね。姫川は警視庁捜査一課所属の花形刑事が、凶悪な難事件を解決していく物語です。一方、魚住久江は所轄の刑事組織犯罪対策課の巡査部長という自分のポジションに満足しています。いや、それどころか捜査一課への異動を打診されても、断り続けているのです。所轄へのこだわりがあるのです。それは殺人事件など滅多に起きない所轄ならではの事件を通して見ることができる人間模様です。ですから、姫川が事件解決に面白さを見出す警察小説だとすれば、こちらは警察という組織を利用して、個人を描いているといってもいいかもしれません。 魚住久江は事件の被害者はもちろん、事件を起こした加害者にも寄り沿い、表面だけでは窺い知れない事件の真相を暴いていきます。恋のキューピッド役を演じたり、犯人に本気で説教して照れたり、法では裁けない男にビンタを張ったりするところに久江らしさがあります。派手な展開はありませんが、渋くて深い警察小説に仕上がっています。 本作には「袋の金魚」「ドルチェ」「バスストップ」「誰かのために」「ブルードパラサイト」「愛したのが百年目」の6編が収録されています。どれもなかなかの読み応えですが、僕には「愛したのが百年目」が1番でしたね。淡々と進む物語に油断していましたので、危うく落涙するところでした。エッセンスを紹介しておきますね。 垣内士郎は大学時代からの親友・神野久仁彦を酒気帯びでひいてしまいました。被害者には大学時代からの恋人だった妻と娘がいました。久江が調べていくと、被害者、被害者の妻、加害者は大学時代からきれいな正三角形の三角関係であったことが判ってきます。垣内は恐らくずっと親友の妻を想い続けていたと思われます。被害者である神野は、これと対照的に不実な男で、なんとか神野の妻と娘を守ろうと、垣内は犯行に及んだのでした。垣内の気持ちを理解し、待っていると告げた神野の妻と娘、純愛が報われる一瞬でした。
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