神様のボート

新潮文庫

江國香織

2002年6月28日

新潮社

605円(税込)

小説・エッセイ / 文庫

昔、ママは、骨ごと溶けるような恋をし、その結果あたしが生まれた。“私の宝物は三つ。ピアノ。あのひと。そしてあなたよ草子”。必ず戻るといって消えたパパを待ってママとあたしは引越しを繰り返す。“私はあのひとのいない場所にはなじむわけにいかないの”“神様のボートにのってしまったから”-恋愛の静かな狂気に囚われた母葉子と、その傍らで成長していく娘草子の遙かな旅の物語。

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江國香織「神様のボート」

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0
2019年12月11日

みんなのレビュー (1)

とも

(無題)

-- 2018年01月19日

恋の賞味期限が通常18ヶ月から3年と言われるのは何故なのか。人は恋に落ちると、脳内の化学物質・ドーパミン、セロトニン、ノルエピネフリンのバランスが崩れ、精神も肉体も、とても正常とは言い難い状態に陥ることが分かっている。こんな状態が続くと心身に大きな負担がかかるところから、脳内ホルモンの分泌が元に戻るように人間の体は作られているのだ。 仮に賞味期限が近づいてもホルモンバランスが元に戻らなかったらどうなるか、を描いたのが本作である。主人公・葉子は16年にもわたって恋をし続けた。その結果は精神に異常を来し、狂気の世界に生きざるを得なかったのである。本作は恋の危険性に触れた物語でもある。恋多き女・和泉式部は夫に離縁され、親に勘当されても恋に生き、多くの優れた恋の歌を残した。こうなると、もはや依存症の域に達しているのでは無いか、とも思われる。本作の葉子はこれとは違い、たった一度の恋で危険水域を超えてしまった。 その恋は通常の恋愛の数倍の蜜の味がした。なぜなら、背徳の恋であったからだ。夫を裏切る罪悪感と、それとは裏腹なスリルに満ちた恋人との甘い逢瀬。通常の恋に数倍するドーパミンの分泌が考えられる。過剰なドーパミンは葉子の精神世界を歪んだものに作り変え、やがて人生という流浪の海へと漂流し始めるのだった。 骨ごと溶けるような恋をした葉子は、その結果、1人娘・草子を設けた。葉子は宝物に囲まれて幸せな暮らしを送っていた。類い稀な美貌とピアノ奏者としての才能。そして、かつての恋人との思い出とその一粒種・草子である。草子もママとの二人暮らしに何の不満もなかった。たった1つ、何年か毎に引越しを繰り返すのを除いては。何ら必然性が認められない引越しの理由を葉子は草子に「だって神様のボートにのってしまったのだから、仕方ない」としか説明しなかった。もっと合理的な説明で納得を得たい読者は、ここからどんどんと葉子の世界に引き込まれていくのだった。 とろけるような甘い恋の蜜に隠れた危険な毒に侵された葉子の漂流が最後の繋留地にたどり着くには、草子の成長を待たなくてはならなかった。思春期を迎えたら草子の親ばなれは、葉子に現実を突きつけるところとなった。それは狂気の中に安穏と漂っていた葉子に葛藤をもたらし、さらに深い霧の中へと誘うのだった。

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