暗幕のゲルニカ
原田 マハ
2016年3月28日
新潮社
1,760円(税込)
小説・エッセイ
反戦のシンボルにして20世紀を代表する絵画、ピカソの“ゲルニカ”。国連本部のロビーに飾られていたこの名画のタペストリーが、2003年のある日、忽然と姿を消した…。大戦前夜のパリと現代のNY、スペインが交錯する、華麗でスリリングな美術小説。
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(無題)
原田マハにとって、ピカソはファイナルであるはずだ。ピカソの代表作ゲルニカをどう描くのか興味深い。僕がゲルニカの前で感動した思いと原田マハの思いとにどれだけの違いがあるかもぜひ知りたいところだ。原田はゲルニカの前に立った時の感動を瑤子に託して「冷たい素手で心臓を鷲掴みにされたようなひんやりとした感覚」と語る。それでは、僕がゲルニカの前で抱いた感覚はどうであったか。言葉で言えば驚愕とか戦慄ということになるその思いを、作者が本書中で僕を代弁して明快に書き表してくれている。 巨大な絵画をひと目見て、言葉を失っていた。なんとか気の利いた賞賛の言葉の1つや2つ言わなければと、焦っているようだったが、なんと賞賛していいのか、果たして賞賛しても良いのかどうかすらわからず、ただおろおろするばかりであった。 世紀の巨匠による新たな芸術が生まれる瞬間に立ち会い、それを記録に残す僥倖などそうそう訪れるものではない。幸運な人物は、女性写真家ドラ・マールであった。当時のピカソの恋人であり、泣く女のモデルとしても知られる。本書は彼女の視点を通し、世界大戦前後の不穏な空気が渦巻くパリのピカソを描いてゆく。これだけであれば、ドラとピカソの恋愛物語に終始してしまうが、そこはピカソが才能の全てを注ぎ込んだゲルニカのこと。いつもの作者とは一味違う味を出している。政治性や反戦思想が色濃く漂っているのだ。 ゲルニカには、油彩と同じモチーフ、同じ大きさのタペストリーがある。ピカソ本人が指示して作らせたもので、ニューヨーク国連本部の会見場に飾られていた。イラク空爆前夜、当時のアメリカ国務長官コリン・パウエルが記者会見を行った際、そこにあるはずのタペストリーが暗幕で隠されていたのだ。ピカソの思いを無視した実に腹立たしい出来事と感じた作者は、主人公の瑤子に知的で洗練された復讐を行わさせた。そこにあったのは新たな暗幕のゲルニカであった。それは暴力を伴う復讐ではないから、暴力の連鎖は伴わない。小気味好く足元をすくうような復讐劇である。如何に架空の出来事とはいえ、こんなことを思いつく作者に拍手である。世界各地で頻発するテロやいつまでも無くならない武力紛争への作者の深い怒りが込められた作品である。
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息もつかせぬ展開
ピカソのそばにいたかのように、当時の世界情勢や人々の息遣いが聞こえてくるかのよう。上質のサスペンス。決して期待は裏切らない。
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