ひとつむぎの手
知念 実希人
2018年9月21日
新潮社
1,540円(税込)
小説・エッセイ
大学病院で過酷な勤務に耐えている平良祐介は、医局の最高権力者・赤石教授に、三人の研修医の指導を指示される。彼らを入局させれば、念願の心臓外科医への道が開けるが、失敗すれば…。さらに、赤石が論文データを捏造したと告発する怪文書が出回り、祐介は「犯人探し」を命じられる。個性的な研修医達の指導をし、告発の真相を探るなか、怪文書が巻き起こした騒動は、やがて予想もしなかった事態へと発展していくー。
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(無題)
紬といえば、大島や結城。高価な着物である。絹織物でありながら紬はせいぜいがおしゃれ着で、一般的には普段着に位置付けられる。どうしてなのであろうか。かねがね不思議に思っていたが、今回、調べてみたらその謎が解明した。通常絹糸は、繭の繊維を引き出して作られる。ところが生糸を引き出せない品質の悪い繭も中には作り出される。天然繊維である以上は、致し方ないところだ。そこでくず繭をつぶして真綿にし、真綿を錘 (つむ) にかけて繊維を引き出し、縒 りをかけて糸にしたのが紬糸である。その紬糸で織ったのが紬である。手間暇かけているので、高価になっても当然だ。そして「錘」を使って糸を作ることを動詞として「紡ぐ」と表現した。さらに転じて現代では「言葉を紡ぐ」「歴史を紡ぐ」「未来を紡ぐ」のように比喩的な表現として用いられる。本書では、心臓外科手術を指しているようだ。心臓外科手術は患者の生き死にを直接左右する。それだけに大きなドラマが生まれる可能性が高いのだ。ハートフルなミステリー。読み応え十分だ。
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