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十兵衛両断
荒山徹
2003年6月20日
新潮社
1,980円(税込)
小説・エッセイ
徳川体制の裏舞台を知り尽くす大和柳生家。だが、日本を代表するこの剣の一族には、たとえ死すとも、口外してはならぬ秘密があった。曰く、「十兵衛は“韓人”に魂をのっとられている…」。剣法家の正統性を揺るがしかねない事態、その真偽や如何に-。朝鮮の陰陽師が跳梁し、太閤の棺を暴き、秀忠の娘に秘術を施す。おぞましき対日謀略、妖術ノッカラノウム、渦巻く恨、閃く魔剣。海峡を越えた暗闘が始まった。
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(無題)
山田風太郎は面白かったなぁ。でも一番好きだったのが、半村良。どこからどこまででが本当の事で、何処からが嘘なのか見当がつかない、それもそのはずです。作者は99%本当の事を書き、嘘は残りの僅か1%に過ぎないのだけど、この嘘が途轍もない嘘八百なものだから、読者は作者の術中にマンマとハマって、気がつくとまた新しい本を手にしているんですね。この手の小説を伝奇小説と言うんですね。本書の作者は本来、こちら方面の方だったんですね。はじめに読んだのが「朝鮮通信使いま肇る」だったものですから、すっかり朝鮮史の方だとばかり思っていました。 さて、本書は『十兵衛両断』『柳生外道剣』『陰陽師・坂崎出羽守』『太閤呪殺陣』『剣法正宗遡源』の 5 篇を収めた連作短篇集です。柳生十兵衛のもとに李氏朝鮮からの使者が訪れ2つの奇妙な仮面を渡すところからこの物語は始まります。この仮面には朝鮮の陰陽師の呪術が込められており、仮面を被った両者の魂と肉体が入れ替わってしまうというものです。李氏朝鮮の使者の狙いは、柳生新陰流の奥義を極めた十兵衛の強靭な肉体にありました。武よりも文を重んじてきた朝鮮に剣術はほとんど存在しませんでした。しかし、清の侵略に揺れる王朝に内部抗争が勃発して強い剣士を獲得したいという状況にありました。そこで十兵衛の技と肉体が欲しかったのです。 仮面を被ってしまった十兵衛の肉体は、朝鮮から来た男に乗っ取られてしまいます。後に残されたのは、剣術の素養のかけらもない凡庸な男の肉体です。その肉体に残された魂は紛れもなく柳生十兵衛のもの。つまり、肉体だけの十兵衛と魂だけの十兵衛、二人の十兵衛が誕生したのです。 日本に残された魂だけの十兵衛はどうするか。剣術を極め、朝鮮に渡り、肉体だけの十兵衛を斬ること、すなわち二人の十兵衛を1人にすることが残された唯一の道です。しかし、刀を抜いても重みで身体がよろけてしまう情け無い肉体です。猛稽古を重ねても一向に上達の気配もないついには十兵衛は、父にも見捨てられてしまいます。 十兵衛は絶望して切腹して果てようとします。が、ここで謎の師匠が登場します。この師匠の元、10年に渡る血の滲むようなような努力を重ね、ついに柳生十兵衛の名に恥じぬ剣術を身に付けます, さらに、ここから展開する物語が本筋でこれが凄い。柳生の流祖・石舟斎(十兵衛の祖父)の話から、衝撃の結末まで100年近い時間の経過が綴られていきます。「十兵衛二人説」のアイディアから広げる物語の展開が実に見事。強烈なラストシーンがまた凄いんです。
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