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スキャンダル
遠藤周作
1986年3月31日
新潮社
1,655円(税込)
小説・エッセイ
都市の闇に作家を追いかけるルポライターと、“自分”を追いつめる作家。緊迫のサイコロジカル・ミステリー。死から吹く風にあおられて、隠れていた顔が顕れる…仮面を外したキリスト教作家の心奥を抉る、衝撃の書下ろし!
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(無題)
普通に読めば通俗小説である。私は本書を心理学者の河合隼雄が言及していたから手にした。従って、心理学の視点から本書を読んだ。物語は老年を迎えたクリスチャン作家、勝呂が自分も知らなかった自分の心の内奥に気付ていくというもの。人生の後半期は、自己洞察と人間理解の深化、本質的諸特質を意識化することが容易になる。人生の半生をカトリックと神について考えてきた勝呂は、作家としての究極的到達点とも言える授賞式を迎えて、不思議な経験をする。自分自身の姿が見えたり、もう一人の自分の存在を感じたりする。精神医学では自己視、自己幻像視とも呼ばれている。普通、精神分析学で言う「二重身」とはもう一人の私が存在するのを見たり 感じたりする現象。これに対して、「二重人格」とは分身が 明確に自立し、可視化する自我の分裂現象を指す。即ち、心の中にだけ存在し ていたもう一人の自分が本来の自分と入れ変って行動する極端な意識の分離現 象を意味する。そして、その後、元の自分に戻ると、自分が何をしたか全然覚えがない。まったく別人のように振舞い、人が変わったような言動をしたのに、 自分だけ気づいてないのである。それは、『スキャンダル』での勝呂も例外では ない。しかし、一方でこの作品のものたりなさとしては、己の無意識に気づき、 統合していく個体化プロセスに忠実であるので、真の意味での神のイメージが省略されている点にある。また、遠藤の神は観念化され過ぎて、人間心理 の内面に存ずる神の存在にだけ焦点が合わせられている。つまり、超越的神の イメージはなくなってしまったのである。
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