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中国はなぜ軍拡を続けるのか
新潮選書
阿南 友亮
2017年8月25日
新潮社
1,650円(税込)
人文・思想・社会
日本がいかに誠実な対応を取ろうとも、どれだけ経済的相互依存を深めようとも、中国共産党はこの先も軍拡を続けるし、いつか武力衝突に発展する可能性がある。それはなぜかー?人民解放軍の分析を長年にわたり続けてきた気鋭の中国研究者が、一党独裁体制における政軍関係のパラドックスを構造的に解き明かし、対中政策の転換を迫る決定的論考。
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(無題)
今更言うまでもないが、中国は共産党による独裁国家である。そして、この国には民主主義も言論の自由もない。飛躍的な経済発展とともに、豊かになった中国は我々西側諸国と価値観を共有していると勘違いしている人もいるかもしれない。繰り返すが、中国では民主的な国政選挙は行われずに、共産党による独裁統治が続いている。それを可能にしているのが、中国共産党の私的軍隊である人民解放軍である。つまり、軍隊という暴力装置で、人民の基本的人権を抑え込んでいるのがこの国の統治構造なのだ。 本書は中国政治を専門とする筆者が 中国共産党統治の実態に鋭く切り込んだものである。実に重厚できめ細かい内容である。中国は毎年10%前後の軍事費拡大を続け、20年前は日本の半分だった中国の国防費は今や5倍にも達している。何故それほどまでに軍拡を続けるのか、それを理解するには、「改革開放」の時代にまで遡らなくてはならない。西側諸国に解放された中国の国土と労働力は、資本投下した企業ばかりか、中国にも富をもたらした。しかし、それは諸刃の剣でもあった。西側諸国からの情報の流入は人民の間に民主化の要求を生むところとなった。これに対してあくまで独裁に固執する中国共産党は、人民解放軍を用いて人民に銃口を向けるという挙に出たのである。いわゆる天安門事件である。人民解放軍の兵士や戦車による弾圧は、世界中に配信された。西側諸国はすかさず、中国に制裁を科すところとなった。さすがに「これはマズイ」と反省した当局は、愛国主義教育などで民衆の不満に目眩しを加えた。一方、経済成長による果実は党幹部周辺に集中し、貧富の格差は拡がる一方である。そしてジニ係数を持ち出すまでもなく、貧富の差は政権転覆をもたらしたのが世界の歴史である。そんな危うさを秘めた中国の統治構造を維持するためには、国内の異議申し立てを暴力によって抑え込むことと、日・米を念頭に置いた外敵を常に国民に意識させることで、軍事力の増強を図る必要に迫られているのだ。アメリカの軍事力の前には、大人と子供ほどの差がある時代遅れの軍拡を続けざるを得ない中国の姿には、哀れさと滑稽さを禁じ得ない。
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