アンハッピ-ドッグズ

近藤史恵

1999年10月7日

中央公論新社

1,760円(税込)

小説・エッセイ

なんだろう。壊してしまうとなんとなく安心するの-要するにわたしはまだ、子供なのかしら。ことばや約束事を重ねることで築き上げてきた関係。気鋭が挑む、邪悪な恋愛小説。

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4.2 2018年02月09日

「ポン・ヌフの恋人」という映画をご存知だろうか。1991年に制作された古いフランス映画である。ポン・ヌフとは、セーヌ川に架かるパリで最も古い橋の事である。この橋で繰り広げられるホームレスの青年と、失明の危機にかられた女子画学生との純愛を描く映画である。モノクロームなパリの街と全編に漂うアンニュイな雰囲気に満ちた、いかにもフランス映画らしい作品だ。命があるだけのその日暮らしのふたりである。そんな最低の境遇の中でも、人は不器用にそしてエゴイスティックに人を愛してしまう。そんな人の持つ矛盾や葛藤や汚らしさを、この映画は容赦なく描きだしている。近藤史恵は「アンハッピードッグズ」の中でヒロイン真緒に「貧乏くさい方がロマンチックなのよ」と言わせている。 そう、この作品は映画「ポン・ヌフの恋人」を現代に甦らせたものだったのだ。まだ30前だというのに真緒と岳のカップルは、まるで中年夫婦のような倦怠感にまとわれている。舞台はポン・ヌフにほど近いパリ11区。この地域はアジア系の移民が多く住む生活感のあるエリアだ。季節は冬。冬のパリは底冷えがする。何より日本人が違和感を覚えるのは日照時間である。朝の7時でもまだ夜が明けきらず、そして夕方5時ともなると薄暗くなってしまう。人々は家に閉じこもり、活動的ではなくなってしまう。3年前からパリに住む岳が気まぐれを起こしたのは、そんは日常に飽きていたからかもしれない。岳は空港で置き引きにあった日本人の新婚旅行カップルを連れ帰ってくる。岳と真緒、そして浩之と睦美の奇妙な同居生活が始まった。やがて4人の関係に微妙な変化が生じる。それはパリという街が悪いのか、あるいは都会人の奢りか、退屈ゆえに起こした悪戯心か。仕掛けたのは岳であるが、真緒も観察者として共犯であった。 この作品はアンニュイな雰囲気を楽しむ恋愛小説である。だから、ストーリーにこだわる必要はない。ましてや理屈や解説、あるいは倫理や道徳とは最も遠いところに位置する事を理解しないと、真の意味でこの作品を味わう事はできない。何しろ作者は岳と真緒を評して『感傷的な冷血漢』と言っている。これは「エゴイスティックな都会人」と言い換える事もできる。新婚旅行でパリにやってきたお上りさんの浩之と睦美のカップルをズタズタにし、自分は何事もなかったかのように元の鞘に収まるのはエゴイスティックな思い上がりであるが、得てして都会人にはこの手が多いものだ。 また本書からは、犬のおしっこと香水とフランス人の体臭、その他諸々が入り混じったパリの地下道の匂いが漂ってくる。これを味わうのも本作の楽しみのひとつである。ところで、日本人ほど印象派絵画の好きな国民はいない。著者はこれを俗物と言って嫌う。そこで本作では、真緒に「オルセー美術館は、にやけている」と言わせている。僕はいいと思うけどね〜。

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