ひなのころ

中公文庫

粕谷知世

2008年2月29日

中央公論新社

712円(税込)

小説・エッセイ

お雛様や、お人形とも話せた幼い日々、病弱な弟を抱える家族の中で、ひとり孤独を感じていた頃、将来が見えず惑い苛立った思春期。少女・風美にめぐる季節を切り取り、誰もが、心のなかに大事に持っている“あのころ”の物語を描き出す。期待の新鋭、初の文庫化。

本棚に登録&レビュー

みんなの評価(1

--

読みたい

0

未読

0

読書中

0

既読

1

未指定

3

-- 2019年12月15日

粕谷知世「ひなのころ」

本書は、田舎の大きな一軒家に、祖母を筆頭に三世代で住む家族の、祖母と孫を中心に描いた作品です。孫である風美の、4歳・11歳・15歳・17歳の頃が描かれます。 小さいころ、風美はとても寂しい思いをしていた。弟の昌樹が病気がちで、よく入院もするから母が看病に行ってしまうし、父親は仕事でいない。だから風美はお祖母ちゃんと一緒にいることが多かったのだけど、そのお祖母ちゃんも畑仕事に出て家にいないこともあった。 だからなのかもしれない。風美は小さい頃、人形たちの声が聞こえた。戸棚の中にあるこけしが苦しいから出してとささやいてきたり、トイレの白黒のタイルの中に見つけたパンダくんが話しかけてきたり。仏間に飾られている写真の人が話しかけてくることもあった。 大きくなった風美は、捉えようのない感覚に囚われることになる。予想される自分の人生にうんざりしたり、勉強することの意味を理解できなかったり、自分の身体さえ自分のものだとは思えなかったり…。 何事にも厳しく、自分が愛されているとはどうしても感じられないお祖母ちゃんとの関わりの中で、自分の存在の不確かさみたいなものを突きつけられる風美は、家族にさえ心を許せずに過ごしていくことになるのだけど…。 というような話です。 本当に、何が起こるというわけでもなく、風美という少女の視点を通して、一人の少女の成長や家族のあり方みたいなものをじんわりと描いている作品です。 凄く丁寧な作品だな、というのが一番の印象です。物語の起伏はないのだけど、風美が暮らしている日常の情景や、風美がどんな場面でどんなことを感じているのか、ということを丁寧に描くことで、物語に広がりを与えている、という感じがしました。正直に言えば、若干物足りなさを感じもするんですけど、この物語の世界観の中では、実にうまく描いている、という感じがしました。 家族の描き方が凄くいいと思うんですね。風美は、家族の中に自分の立ち位置みたいなものを見つけられずに大きくなってしまった、という感じです。これは、まあ人によるだろうけど、こういう感覚を抱いてる人って、割と多いんじゃないかな、と思うんです。 僕も、まあ割とそうでしたね。家族、という存在そのものに、どうも馴染めないというか。関係性が近すぎるというか、自分がここにいなくても別にいいんじゃないか、とかね。風美はまたちょっと違った形で家族との関係に悩むんだけど、家族との関わり方みたいなのは、千差万別とは言え誰もが抱えることなんじゃないかなと思うんで、風美の悩みみたいなものに共感できる人はそれなりにいるんじゃないかな、と思います。 風美のお祖母ちゃんのキクは、正直うっとうしいですね(笑)。僕なんか、一緒に住んでたら、たぶん相当嫌いになるだろうなぁ、と思うんです。でもその一方で、キクみたいな子育てって結構大事だったりするのかも、とか思ったりします。今、親が子供の甘やかすみたいな風潮が凄くあると思ってて、自分の子供を叱れない親とかもたくさんいる気がします。キクは、子供のウチは凄く鬱陶しいかもだけど、大人になって振り返ってみれば感謝出来るような、そんな大人なのかもしれないなぁ、と思ったりしました。 読めばじんわりと来る作品ではないかなと思います。タイトルはたぶん、「ひなまつり」と「親の庇護から抜け出せない雛」という二つの意味が掛かってるんだろうなぁ、と思います。読んでみてください。

全部を表示

みんなのレビュー

レビューはありません

Google Play で手に入れよう
Google Play で手に入れよう
キーワードは2文字以上で検索してください