一路(下)
中公文庫
浅田次郎
2015年4月23日
中央公論新社
704円(税込)
小説・エッセイ / 文庫
中山道を江戸へ向かう蒔坂左京大夫一行は、次々と難題に見舞われる。中山道の難所、自然との闘い、行列の道中行き合い、御本陣差し合い、御殿様の発熱…。さらに行列の中では御家乗っ取りの企てもめぐらされー。到着が一日でも遅れることは御法度の参勤交代。果たして、一路は無事に江戸までの道中を導くことができるのか!
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浅田次郎という作家は、くすぐりどころ、泣き落としどころをわきまえていて、読者にキチンと笑いと涙を提供してくれます。この辺は職人技と言っても良いとおもいます。また優れたエンターテイメント作家とも言えましょう。これを心地良いと感じるか、あざといと感じるかは読者によって評価が分かれるところですね。 さて、本書の主人公・一路に次いで存在感がある人物と言えば、殿様・蒔坂左京大夫でしょうね。西美濃田名部郡に七千五百石の知行を戴き、格式高い「交代寄合表御礼衆」二十家の筆頭にして城中では大名に伍しての帝鑑間詰です。ただしバカの鑑で歴代のバカにつき、歴代が無役です。おまけに芝居ぐるいときたら、世間の評価は推して知るべしです。ところが、この殿様の馬鹿・うつけは演技であることが次第に明らかになってゆきます。なぜ演技するかと言うと、その方が座りがいいからです。殿様が利口であっては、家内の秩序を保つのが困難になります。例えば、何か素晴らしいことをした者がいても、無闇に褒めることは出来ません。褒めれば報償を与えなければならなくなります。それはお家の台所事情に影響を与えます。また、反対に不平や不満を言ったら家来は、自責の念から腹を切ってしまうかもしれません。ですからそんなことは口が裂けても言えないのです。お殿様としては、お飾りの人形のように、出しゃばらず何も考えていない風を装って日々をやり過ごすしかない、と思っているのです。もう一つは、動乱の世の中での処世術とも言うべきものでしょうか。有能であれば、天下国家のために働かなくてはならなくなります。天下国家の為に命をすり減らして働くのです。この殿様は、自らの知行地・西美濃田名部郡を一所と定め、これを懸命に守ることが武将の本分と固く信じているのです。 ともあれ、参勤交代の道中でお殿様は、素顔を晒さざるを得ない状況に遭遇します。そこで9回の裏ツーアウトからの逆転満塁ホームランのような痛快な展開を示すのですから、読者はお殿様に拍手を送りたくなってしまいます。こうしてお話は、大団円へと向かいます。
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onochin
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