
ユニコーン
ジョルジュ・サンドの遺言
原田マハ
2013年9月30日
NHK出版
1,430円(税込)
小説・エッセイ
タピスリーの貴婦人は、ジョルジュ・サンドに助けを求めた。中世美術の最高傑作「貴婦人と一角獣」に秘められた物語が、幕を開ける。ジョルジュ・サンドの短編も収載。
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(無題)
「ルネサンス三大発明」と言えば羅針盤、火薬と並んで印刷技術が挙げられる。これらの技術は元々中国のものであったが、中世ヨーロッパで飛躍的な改良発展を遂げた。そしてこれらは、全世界を変えてしまうインパクトを秘めたものだった。火薬の威力はそれまでの戦争を一変させたし、羅針盤は来るべき大航海時代の先駆けとなるものだった。活版印刷はドイツのグーテンベルクによってもたらされ、文学のあり様を大きく変えたものといわれるが、こと出版については若干の追加補正が必要となる。活版印刷の発明をもって文学の大衆化がもたらされたかと言えば、そうでは無く、ベネチアにおけるイタリック書体の発明と出版社の出現を待たなくてはならない。これをもって書籍は工業生産されたと言ってよろしい。それまでの出版は、羊皮紙に手書きされた工芸品と言って良いものだった。工業製品が規格化による機能的な美しさを備えるとすれば、工芸品としての書籍は、手作りの職人技による創意工夫が随所にみられた。それは言語表現による本文よりも外側、装丁に現れていた。その伝統は、完全に工業製品と化した現代の書籍の装丁に美しさを求めるところに残る。 長々と書いたのは、本書の美しさとそのことに対する著者の思い入れを強調したかったからである。表紙カバーは黒地に白抜きの書名と著者名、その周辺には古色蒼然としたタピストリーの文様が配置されている。表紙と見返しは、眼に鮮やかな緋色である。さらにフルカラーの口絵が続けば、予算に縛られる編集者ならずとも頭を抱え込まざるを得ないのは想像に難くない。それもそのはず、本作はNHKの「日曜美術館 原田マハが挑む 貴婦人と一角獣」の企画から生まれたものだったからだ。さすがに潤沢な資金量を誇るNHKならでは、の文化事業なのだった。 さて、前置きが長くなったが、内容に触れずばなるまい。全体的にフランスの空気と文学、絵画、音楽の芸術が醸し出すサロン的雰囲気が漂っていることを、先ず指摘しておきたい。これは、決してそんなブルジョア趣味を非難しているのではなくて、著者の意図が明確に表現されていることを褒めているのだ。 次は書かれている内容だ。ジョルジュサンドが、今ではフランスの至宝とも呼ばれるタピストリー作品「貴婦人と一角獣」をクリュニー中世美術館に収蔵するように遺言するまでの経緯が描かれている。この中世に織られた美しいタピスリーは、19世紀にブーサック城で発見されたが、保存状態が悪く傷んでいた。ジョルジュ・サンドがこのタペストリーを賛美したことで世の関心を集めることとなったのが史実であるが、著者はタピスリーとその所有者の女主人に纏わる不思議な体験を描いた小説に仕上げている。 この本、短篇なので単行本一冊に仕上げるにはいささか無理があるように思われるが、そこは文化の前には経済性は後からついてくる大NHKの事、豪華にすることで定価も含めて読者の満足度を高めている。
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