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盗まれた最高機密
原爆・スパイ戦の真実
山崎啓明
2015年11月30日
NHK出版
1,760円(税込)
科学・技術
広島と長崎への原爆投下から70年ー連鎖反応する恐怖が、この悪魔の兵器を生み出した。米・ソ・独・英・日などの間で繰り広げられた、原爆開発を巡る熾烈な情報戦の有様を描く。2015年11月放送のNHKスペシャル書籍化!
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(無題)
史上最強の武器を最初に手にしたのはトルーマン大統領であった。原爆の開発と言えば、マンハッタン計画が直ぐに思い浮かぶほど、アメリカ独自の技術と思っていたが、本書によれば米独ソ日で独自に開発が計画され、各国の間では熾烈な諜報戦が展開されたのを初めて知った。原爆に関するインテリジェンスと聞けば、ソ連のアメリカへのスパイ活動と思ってしまうが、本書で描かれているのはアメリカの諜報・工作機関であるALSOS(アルソス)である。ドイツによる原爆開発を阻止するべくノルマンディー上陸作戦後に最前線に出て科学者を追跡したり、時にはドイツの原爆開発に関わる科学者ハイゼンベルクの暗殺を企画したり、あるいはナチスが隠したウランを強奪したりという活動が紹介されている。アメリカの諜報機関がなぜそこまでの非合法活動を行うか、ドイツに先を越されないかとの焦りがそこにあったと聞けば、思わず唸ってしまう。 マンハッタン計画の成否を左右するのは起爆装置であった。このため全米から優秀な科学者と技術者が集められた。18歳でハーバード大学を卒業したセオドア・ホールもその一員であった。彼らは膨大な計算の結果、核分裂を起こすプルトニウムの周りを爆薬で包み込み、内側に向かって爆破する「爆縮」という起爆装置を考え出したのだった。 こうしてアメリカは世界で唯一の核保有国となったのだが、その後なぜ核拡散が進んだのか、そこには強力なスパイの存在があった。セオドア・ホールである。彼は考えた。アメリカが原爆を独占したら一体どうなるのか。ホールは核戦争の恐怖を各国の指導者が共有すれば、彼らは正気を保ち、平和が訪れると思ったのだった。こうして休暇の名目でニューヨークを訪れたホールはソ連の関係者を訪ね歩き、諜報機関のエージェントに接触、原爆の機密資料を渡した。機密資料を入手したソ連の原爆開発は一気に加速した。 核保有国となったアメリカは、核兵器の実戦配備を開始した。ソ連の9割の国民を殺し、産業を壊滅させるための標的となる核攻撃の計画を立てた。ソ連も国土復興よりも原爆開発を強力に推進した。1949年8月に初の原爆実験に成功し、アメリカの核独占に終止符を打ち、冷戦が始まった。ソ連が開発した核兵器はアメリカが長崎に投下した物そっくりだった。盗んだ設計図をそのままコピーしたからである。アメリカの原爆スパイは次々に捕まったが、セオドア・ホールは訴追を逃れ、イギリスで研究者としてひっそりと生涯を終えた。
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