100分de名著(2014年5月)

NHKテレビテキスト

日本放送協会 / NHK出版

2014年4月30日

NHK出版

576円(税込)

人文・思想・社会

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すけ

ユダヤの歴史から、『旧約聖書』の内容と意義を考察

starstarstarstar 4.0 2021年12月27日

『旧約聖書』は、ユダヤ教の教典だ。 日本人のように、多神教もしくは無神論的な文化圏で生活していると、一神教であるキリスト教やイスラム教、ユダヤ教等についての知識や理解が乏しい人が私含め少なくない。本書は、そのような人々のため、編纂の歴史から細かく解説し、非常に複雑で難解な『旧約聖書』挑戦の手助けを目的としている。 本書は、いわゆる「旧約聖書入門」や「旧約聖書要約本」のように内容にフォーカスしているのではなく、寧ろ内容は最小限に留め、史実と絡め『旧約聖書』における矛盾点やユダヤ教徒の信仰についての議論をメインに扱っている。 細かい内容は原著を読めと割り切り、「歴史」や「信仰」の議論を解説することで間接的に『旧約聖書』への理解を高めてほしい、という著者の考えは100分de名著のコンセプトに合っているかどうかはともかく、個人的に面白いなと感じた。 しかし、その弊害として、著者は『旧約聖書』もとい「ユダヤ教」にかなり批評的な視点で論を進めており、「原著を読みたい」と読者に思わせる工夫が足りないように感じた。 ある程度前提知識がある読者には効果的だとは思うが、初心者には著者の展開する議論自体理解が難しく、原著挑戦への意欲を削いでしまうのではないだろうか。 少なくとも、(旧約聖書初心者として)最後まで読んでみた感想としては、未だに神学研究者の中でも真っ向から意見が分かれるような記述が大量に存在するのに、それを「教典」として崇める信者が多数いることに、宗教の強さを感じた。 例えば、旧約聖書の「律法」と呼ばれる部分。これは、ユダヤ教徒にとっては「法律より権威の高い行動指針」であるが、構成が物語調で完璧な理解、遵守が極めて難しいとされる。しかし、「律法の完全遵守」のみが「罪の状態」から抜け出し、神の恵みを受けることができる方法である。 すなわち、「結局人が何をしても神に救われない」「気まぐれな神の行動を待つほかない」と『旧約聖書』自体が認めてしまっていると著者は主張する。 その他にも、『旧約聖書』の内容やユダヤ教徒に関する問題は本書であちこち紹介されている。 しかしそれでも、『旧約聖書』は世界で最も読まれた超絶ベストセラーであり、最も人に影響を与えた書物であることは確かだ。だから、キリスト教・イスラム教の前身であるユダヤ教について、またその教典について議論とともに知識を深めておくことは世界のマジョリティーを理解する重要なキーになると思う。 ここからは本のレビューと少し離れるが、思ったことを少し。 良く日本人は「海外の人とは宗教の話はタブーだよ」なんて言われるが、つい最近までメキシコ滞在していた身としては、これは大きな誤解に繋がる古い教育だと思う。海外の人は「その類の話をするのが嫌い」なのではなく、「知識・理解の乏しい人と対等に議論できないし、したくない」のだ。当たり前である。誰が野球に無関心な人と「メジャー投手の松ヤニ問題」について議論したいだろうか。 確かに宗教は我々日本人にとってはお堅く高尚で、なんなら少し恐怖すら覚えるテーマである。 でも、だからと言ってそれを退けてしまうのはグローバル化、国際的な相互理解の発展には大きくマイナスだ。そして何より、他の文化を知ることは同時に自分たちの文化について考える良いキッカケにもなる。 「日本人って、外はおろか日本についても知らないんだね」とバカにされないよう、常日頃から様々な分野に対する知的好奇心を持ち、考え、「自分の意見」を蓄えていくことが重要だと思う。

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