
アルジャーノンに花束を新版
ハヤカワ文庫
ダニエル・キイス / 小尾芙佐
2015年3月13日
早川書房
1,320円(税込)
小説・エッセイ / 文庫
32歳になっても幼児なみの知能しかないチャーリイ・ゴードン。そんな彼に夢のような話が舞いこんだ。大学の先生が頭をよくしてくれるというのだ。これにとびついた彼は、白ネズミのアルジャーノンを競争相手に検査を受ける。やがて手術によりチャーリイの知能は向上していく…天才に変貌した青年が愛や憎しみ、喜びや孤独を通して知る人の心の真実とは?全世界が涙した不朽の名作。著者追悼の訳者あとがきを付した新版。
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starstarstarstar 4.6 2025年05月06日
star
この物語は、知的障害を持つ青年チャーリイ・ゴードンが、脳手術によって天才的な知能を得た後、再び衰えていくまでの過程を、「経過報告(プロブレムズ・レポート)」という一人称形式で描いています。そのため、彼の成長と変化が文体や表現力にも反映されており、まるでチャーリイの心と一緒に読者も旅をしているような感覚になります。
手術によってIQが上がるにつれ、彼は周囲の人間の「本音」や「偽善」に気づき始め、かえって孤独を深めていきます。**「賢くなること=幸せになることではない」**という事実が、静かに、しかし強烈に突きつけられるのです。
さらに、チャーリイが自分と同じ手術を受けたネズミのアルジャーノンと心を通わせ、やがてアルジャーノンの死を通じて自分の運命を知るくだりは、何度読んでも胸が締めつけられるほど切なく、美しい。
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知能と愛情
starstarstarstar 4.9 2024年11月06日
star
こんなに素晴らしい小説を読めてとても幸せだった。平生からカフェで読書するが、何度も泣きかけて、その度に周りに誰もいないところで読みたかったと強く思った。
知的障害の主人公チャーリィは、利口になれば、幸せを掴めると考えていた。利口でない故に家族に見捨てられ、友達も少ないと思っていたからだ。そんな矢先、ニーマー教授とストラウス博士が知能を底上げする手術を開発し、その施術を受ける一人目に選ばれた。徐々にチャーリィは利口になり、IQは60程度から180まで向上し、天才となった。一頁を1秒で速読し理解できる頭脳を持ったことで、飢えていた知的好奇心を埋めるために、加速度的に尨大な知識を得て、あらゆる学問に明るくなり、各分野の教授達を凌ぐ知能を手に入れた。しかし、そこで待っていたのは、更なる孤立、孤独であった。IQが違うから会話ができないということだけではなく、IQが高い彼と話すことで周囲が劣等感をひしひしと感じてしまうため、周囲から敬遠されるようになったのだ。そこには、チャーリィの相手を慮る愛情や敬意が乏しさ、自身の知的能力を承認されたい欲求が優った高慢さ、自己中心的な心性が垣間みえたからである。
一般的に人は、誰もが称賛されたく、利口にみられたいという承認欲求がある。
また誰しも、孤独には耐えられいので人との関わりを持ち続けたいという親密欲求が根底にある。親密欲求を上手く満たすためには、対人関係を上手く構築する必要があり、その土台は他人を慮ることである。つまり承認と是認から示す愛情、敬意である。そしてその承認是認の示し方は情動的共感と認知的共感から成り立つ。感情的にも論理的にも共感し肯定する温かさが対人関係の緩衝剤になる。
しかし、承認欲求がこの親密欲求のバランスを崩してしまうことがある。情動的共感、認知的共感が必要な時に、自身の感情の赴くまま、衝動的に、自身の聡明さを承認してもらおうと、知識をひけらかし論破してしまうことがある。知能は衒学的に昇華される傾向にあるのだ。
その結果、正論だとしても、相手を傷つかせ、劣等感を植え付けてしまう。論破だけでもなく、自分の知らない知識を矢継ぎ早に言われたりする時も然りである。
人は惨めな気持ちを感じる場所からは遠ざかる傾向がある。そのため、衒学的な人物からは遠ざかるものだ。
またチャーリィも然りだが、そういった劣等感を糧に利口になりたいと強く思う人も現れる。そういった人が勉強に励み、博識となり、称賛されることで、満足を覚えるが、劣等感の補填故に、相手に対する愛情や敬意を裏打ちした思い遣りに欠けやすく、結局周囲から孤立し始める。称賛されたい故の努力が、水疱に帰してしまう。
道理として、何事も程々がいいものだ。0.100の考え方、つまり白黒思考が人を生きづらくするように、物事も40から60くらいを目指すのが、バランスがよく結果的にうまくいくと思う。
チャーリィは、利口になったことで、自分を愛してくれる友人を失ってしまった。その友人は、側からみたらチャーリィを見下すことによって自己高揚を得ている愚かな連中でもある。しかしよしんば憐憫からだとしても、愛情は根底にあった。
どのような心理過程があろうとも、寛容で慎み深い考えとして、人に必要とされていることに幸せを感じる場合もある。こういった考えからか、最後にチャーリィは「人に笑わせておけば友達をつくるのは簡単です」「ぼくはたくさん友達を作ります」と言い残す。馬鹿にされるという劣等感を拭い去る必要があるので、一筋縄ではいかない信条だが、こういった考えを片隅に置いておくだけで、すごく報われる時もある。
この物語は、上記のように、何が幸せで何が不幸か、非常に深淵なる命題を問いかけられている。答えがない故に、非常に考えさせられる示唆に富む話である。その中でも、この物語の真髄は、チャーリィの純粋無垢な愛情、特にアリスとの神秘的な愛であると思う。
愛し合うことを「孤独な死のゴールボックスへと赴く道程を押し留める釣り合いの重り」と表現したように、孤独に打ち勝つものは知能・知識・教養ではなくて、愛であるのだ。また親密欲求と承認欲求のバランスを保つ方法も、これまで述べてきたよう相手への愛情なのだ。「人に笑わせておく」というチャーリィの箴言も、愛情が裏打ちされている。
追伸
文学的にも、チャーリィの視点から全てを描いたことは秀逸であった。またヨルシカのアルジャーノンのメロディ、歌詞、MVはまたしても圧巻で、感動を一層強めた。
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知能と愛情
starstarstarstar 4.9 2024年08月11日
star
こんなに素晴らしい小説を読めてとても幸せだった。平生からカフェで読書するが、何度も泣きかけて、その度に周りに誰もいないところで読みたかったと強く思った。
知的障害の主人公チャーリィは、利口になれば、幸せを掴めると考えていた。利口でない故に家族に見捨てられ、友達も少ないと思っていたからだ。そんな矢先、ニーマー教授とストラウス博士が知能を底上げする手術を開発し、その施術を受ける一人目に選ばれた。徐々にチャーリィは利口になり、IQは60程度から180まで向上し、天才となった。一頁を1秒で速読し理解できる頭脳を持ったことで、飢えていた知的好奇心を埋めるために、加速度的に尨大な知識を得て、あらゆる学問に明るくなり、各分野の教授達を凌ぐ知能を手に入れた。しかし、そこで待っていたのは、更なる孤立、孤独であった。IQが違うから会話ができないということだけではなく、IQが高い彼と話すことで周囲が劣等感をひしひしと感じてしまうため、周囲から敬遠されるようになったのだ。そこには、チャーリィの相手を慮る愛情や敬意が乏しさ、自身の知的能力を承認されたい欲求が優った高慢さ、自己中心的な心性が垣間みえたからである。
一般的に人は、誰もが称賛されたく、利口にみられたいという承認欲求がある。
また誰しも、孤独には耐えられいので人との関わりを持ち続けたいという親密欲求が根底にある。親密欲求を上手く満たすためには、対人関係を上手く構築する必要があり、その土台は他人を慮ることである。つまり承認と是認から示す愛情、敬意である。そしてその承認是認の示し方は情動的共感と認知的共感から成り立つ。感情的にも論理的にも共感し肯定する温かさが対人関係の緩衝剤になる。
しかし、承認欲求がこの親密欲求のバランスを崩してしまうことがある。情動的共感、認知的共感が必要な時に、自身の感情の赴くまま、衝動的に、自身の聡明さを承認してもらおうと、知識をひけらかし論破してしまうことがある。知能は衒学的に昇華される傾向にあるのだ。
その結果、正論だとしても、相手を傷つかせ、劣等感を植え付けてしまう。論破だけでもなく、自分の知らない知識を矢継ぎ早に言われたりする時も然りである。
人は惨めな気持ちを感じる場所からは遠ざかる傾向がある。そのため、衒学的な人物からは遠ざかるものだ。
またチャーリィも然りだが、そういった劣等感を糧に利口になりたいと強く思う人も現れる。そういった人が勉強に励み、博識となり、称賛されることで、満足を覚えるが、劣等感の補填故に、相手に対する愛情や敬意を裏打ちした思い遣りに欠けやすく、結局周囲から孤立し始める。称賛されたい故の努力が、水疱に帰してしまう。
道理として、何事も程々がいいものだ。0.100の考え方、つまり白黒思考が人を生きづらくするように、物事も40から60くらいを目指すのが、バランスがよく結果的にうまくいくと思う。
チャーリィは、利口になったことで、自分を愛してくれる友人を失ってしまった。その友人は、側からみたらチャーリィを見下すことによって自己高揚を得ている愚かな連中でもある。しかしよしんば憐憫からだとしても、愛情は根底にあった。
どのような心理過程があろうとも、寛容で慎み深い考えとして、人に必要とされていることに幸せを感じる場合もある。こういった考えからか、最後にチャーリィは「人に笑わせておけば友達をつくるのは簡単です」「ぼくはたくさん友達を作ります」と言い残す。馬鹿にされるという劣等感を拭い去る必要があるので、一筋縄ではいかない信条だが、こういった考えを片隅に置いておくだけで、すごく報われる時もある。
この物語は、上記のように、何が幸せで何が不幸か、非常に深淵なる命題を問いかけられている。答えがない故に、非常に考えさせられる示唆に富む話である。その中でも、この物語の真髄は、チャーリィの純粋無垢な愛情、特にアリスとの神秘的な愛であると思う。
愛し合うことを「孤独な死のゴールボックスへと赴く道程を押し留める釣り合いの重り」と表現したように、孤独に打ち勝つものは知能・知識・教養ではなくて、愛であるのだ。また親密欲求と承認欲求のバランスを保つ方法も、これまで述べてきたよう相手への愛情なのだ。「人に笑わせておく」というチャーリィの箴言も、愛情が裏打ちされている。
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文学的にも、チャーリィの視点から全てを描いたことは秀逸であった。またヨルシカのアルジャーノンのメロディ、歌詞、MVはまたしても圧巻で、感動を一層強めた。
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チャーリィやさしいね
starstarstar 3.6 2024年02月23日
star
知的障害を持ちながらパン屋ではたらく優しいチャーリィが、人工的に知能を高くする手術を受けて圧倒的なスピードで天才になっていく。動物実験で天才となったアルジャーノンの退行していく様子から、自分の未来を完全に予測したチャーリィが、退行していく自分自身の知能に対しても「新しいことを覚えれば下降するエレベーターに乗っていても今の階にとどまれるかもしれない」と本を読み勉強していく様に、この人はすごく純粋で優しい人だと思った。人のせいにしないで自分のやることに一生懸命になれるチャーリィが、作者の経験や出会った人から着想を得て描かれているのはあとがきで知った。きっと作者のダニエル・キイスがチャーリィみたいな人なんだと思う。チャーリィがウォレン養護学校に自らの足で向かう前の手紙の最後の言葉が、裏庭にアルジャーノンの遺体を埋めてつくった墓に花束をそなえてほしいというものだったことからも、この人の優しさがわかる。改めてタイトルを見るとチャーリィの優しさが思い出される。
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ぼくの代わりに花を添えてください
starstarstar 3.6 2023年10月18日
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脳手術により飛躍的に知能が向上した実験用ネズミのアルジャーノン。知能障害を持つチャーリー・ゴードンはアルジャーノンと同じく脳手術を受ける。
チャーリーは賢くなりたかった。賢くなれば周りの役に立てると思っていた。そして手術は成功、チャーリーの知能指数は爆発的に伸びていく。しかし、知能に精神的な成長が追いつかない。人との関わり方が解らない。
手術前には感じなかった孤独に苛まれる。知能は伸び続け、ついにはチャーリーを手術した医師や大学教授さえも超えてしまう。そしてアルジャーノンに異変…。
一人称の日記形式で物語が進む。チャーリーの知能がどんどん伸びていく様を日記の文体の変化で表す。作中に胸に刺さる言葉が多い。
「知能というのはテストの点数だけではありません。他人に対して思いやりをもつ能力がなければ、そんな知能など空しいものです。」 -p4
「金や物を与える人間は大勢いますが、時間と愛情を与える人間は数少ないのです。」 -p337
「大学へ行き、教育を受けることの重要な理由のひとつは、今までずっと信じこんでいたことが真実でないことや、何事も外見だけではわからないことを学ぶためだということを僕は理解した。」 -p118
大学で教育を受ける理由って何だろう❓そんなことも考えさせられた作品だった。
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悲しかった
starstarstar 3.3 2021年03月29日
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知的障害を持った男性、チャーリイは、手術を受け急速にIQが上がり、天才の域に。ただ、その手術は完全なものではなく、一気に退行していく。
頭が良くなるに従って、世界が変わり、これまで友人だと思っていた人々からは馬鹿にされていたこと、家族には見放されてしまったこと、過去の嫌な思い出など全て理解し人を憎むことを覚える。また、人を愛することを知る。天才になると、自分より頭の良く無い人間を無意識に馬鹿にするようになってしまう。人間のありとあらゆる面を見させられ考えさせられる小説だった。
アリスの人物としての器の大きさ、チャーリイの良さを理解し愛し、全てを受け入れた強さには感銘を受ける。
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これは苦しい
手術前の文章は読みずらく、部分的に読み飛ばしちゃうんだけど、完読すると読み飛ばし出来ない。それが、とても失礼な行為だと感じるから。 幸せのあり方って、他者には決められるものでは無いのかもと思わせられる作品だった。
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