災厄の町〔新訳版〕

ハヤカワ・ミステリ文庫

エラリイ・クイーン / 越前敏弥

2014年12月5日

早川書房

1,320円(税込)

小説・エッセイ / 文庫

結婚式直前に失踪したジムが、突如ライツヴィルの町に房ってきた。三年の間じっと彼の帰りを待っていた婚約者のノーラと無事に式を挙げ、ようやく幸福な日々が始まったかに見えた。ところがある日、ノーラは夫の持ち物から奇妙な手紙を見つける。そこには妻の死を知らせる文面が…旧家に起きた奇怪な毒殺事件の真相に、名探偵エラリイが見出した苦い結末とは?本格ミステリの巨匠が新境地に挑んだ代表作を最新訳で贈る。

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Readeeユーザー

意外にも人間ドラマが濃いめ

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3.6 2024年09月15日

エラリークイーンの国名シリーズを2作くらい読んだことがあったので、探偵役としてエラリーが出てくるのかと思いきや、目立った行動やいかにも探偵役っぽい動きはあまりなく、控えめな感じで事件を眺めていたのが意外だった。どうやら国名シリーズの後に書かれた作品らしい。 物語の流れは、最近読んだ「ザリガニの鳴くところ」を彷彿とさせる感じ。 ある田舎町ライツヴィルで、地元の名家ライト家の娘であるノーラがジムという男と結婚する。 しかしその後、ジムは妻ノーラの殺人未遂、および姉ローズマリー毒殺の容疑者として逮捕された男ジムには状況証拠しかなく、誰もジムが毒を持ったところを見ていないが、他の人物が毒を入れられなかったことだけは証明できる、と言う状況。 家の中で見つかった配達されていない3通の手紙には、ジムの筆跡で「感謝祭の日に妻が病気になった」「元日に妻が死んだ」などと書かれており、3通の手紙に書かれている日付通りにジムの妻ノーラが毒を盛られて倒れていた。 その手紙の存在に気づき、ノーラの妹のパトリシアから姉を助けて欲しいと頼まれたエラリーは、ノーラが死んだと書かれていた新年のパーティ🪅で来客分のカクテルを作るジムを徹底的に監視していたが、ノーラに渡されたカクテルをジムの姉ローズマリーが奪い取り、すべて飲み干したところ、ローズマリーは毒により死亡する。ノーラも少量の毒で倒れる。 カクテルに毒が入っていたことがわかるが、エラリーの監視によりカクテルに毒を入れられたのはジムしかいないことが示される。さらに状況からして本来狙われたのはノーラであること、ジムは賭博などで借金があり金銭を必要としていたが、ノーラには多額の遺産相続がされていたこと、3通の手紙に書かれた妻の殺害予告、しかも酒に酔った際に殺害を仄めかすような発言までしていて、状況だけ見れば確実、といった感じ。 裁判パートでは、パーティの現場で誰も毒を入れられなかったことがはっきりとあらゆる角度から示されることになる。ジムも逮捕後は完全黙秘を貫くが、ノーラはジムは犯人ではないと言い、夫を支持し続ける。ただ、この裁判ではアクシデントがおこり、判決は下されず延期されることになる。 読んでいて、ジムが殺害を仄めかす発言をする時も、手紙の中でも「妻を始末する」と言うだけで、一度もノーラを始末するとは言っていない。このことから、ジムが言っていたのはノーラではなく別の女なのでは?と思った。 結局、3通の手紙は実はジムがノーラと結婚する前、ニューヨークで書かれたものだったことがわかる。このことから手紙の「妻」はノーラを指していないことが判明する。さらにジムの姉としてライツヴィルに来ていたローズマリーが、実はジムの前妻だったことがわかる。 ジムは賭博で借金をしていたと思われていたが、それはローズマリーから脅されて金銭を渡していたのだった。脅迫理由は重婚。 ジムはローズマリーと別れたと思い込み、ノーラと結婚したが、ローズマリーは離婚届を出していなかった。アメリカでは重婚は重い罪になるし、田舎町ライツヴィルでそんな噂が広まることは、名家の娘ノーラにとって恥をかかせることなので、ジムはノーラやその家族には秘密にし続けていた。 しかし、ある日ジムとローズマリーが口論しているところにノーラが出くわし、すべてを知ることになる。ノーラはジムからの度重なる辱め(以前、結婚式直前にジムに逃げられており、数年後戻ってきたジムとようやく結婚に至っていた)に激怒したノーラが、ジムとローズマリーに復讐することを決意。ジムが昔書いた手紙(ジムが偽ローズマリー殺しを計画した際に書いた、姉に前妻の死を告げる手紙)を利用して今回の一連の毒による事件を引き起こした。 ノーラが一貫してジムは犯人ではないと擁護していたのは、自分が犯人だったからだった。ジムから手渡されたカクテルをローズマリーに奪い取らせるように仕向け、その際に毒を入れたのだった。 だが、元々繊細なノーラはジムとの結婚に関するいざこざから精神を病んでおり、その上妊娠が発覚して、早産になり、そのまま息を引き取ってしまう。 それを拘置所内で聞いたジムは、ノーラの葬儀に参列した際に逃げ出し(ジムを擁護する記事を書き続けていた新聞記者が手助けした。実はジムの本当の姉だった)、その後事故死した。事件は被疑者死亡で幕引きとなる。 ノーラとジムの赤ちゃんは、ノーラの妹パトリシアとその恋人カート(今事件の担当検事だった)に引き取られることになり、闇の中だった事件の真相は、ただ一人真相を見抜いたエラリーによってパトリシアとカートにだけ語られるのだった。 なかなか切ないラスト。エラリーと恋仲になりかけていたパトリシアだが、エラリーの計らいにより元恋人のカートと結ばれることになったり。 田舎町ライツヴィルの中心にいた名家ライト家が、一連の事件をきっかけに手のひらを返すように町民からの謗りを受け、誹謗中傷に晒されたりする様を「災厄の町」として表現している。だが、それと同時に矜持と誇りを持って災厄に立ち向かうライト家の面々の様子も描かれている。 今まで読んだエラリークイーンの小説はどんどん人が死んでトリック中心に物語が進む感じだったが、この作品はトリック自体よりも町の人間模様や家族間のやりとりに重きが置かれていたように思う。「推理小説」ではなく「長編小説」として作者が位置付けていたらしい。 ザリガニの鳴くところ よりも事件の真相はおもしろかった。さすがだなー。

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