無理

奥田 英朗

2009年9月30日

文藝春秋

2,090円(税込)

小説・エッセイ

合併でできた地方都市、ゆめので暮らす5人。相原友則ー弱者を主張する身勝手な市民に嫌気がさしているケースワーカー。久保史恵ー東京の大学に進学し、この町を出ようと心に決めている高校2年生。加藤裕也ー暴走族上がりで詐欺まがいの商品を売りつけるセールスマン。堀部妙子ースーパーの保安員をしながら新興宗教にすがる、孤独な48歳。山本順一ーもっと大きな仕事がしたいと、県議会に打って出る腹づもりの市議会議員。出口のないこの社会で、彼らに未来は開けるのか。

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Aria1307

(無題)

-- 2018年10月13日

Pa: Ma: ★★★半

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Readeeユーザー

(無題)

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3.1 2018年01月28日

舞台は、町村合併して1年ほどのゆめの市。国道沿いに建つショッピングセンターに客を奪われ、地元の商店街はさびれる一方。経済は沈滞、人は流出、コミュニティーが機能しなくなっている典型的な地方都市だ。その地で暮らしながら何の関わりも持たなかった5人が、小さな傷が雪だるま式に膨れ上がり、あるいは不運としかいいようのないアクシデントに見舞われて、ラストには思いがけない形で人々が遭遇する。出口の見えない不況と、そのために日々鬱積する彼らの不満が鮮やかに描かれている。 相原友則はゆめの市にある社会福祉事務所に出向中の県職員。生活保護課で、毎日、生活保護受給者の面倒を見るが、自立せずに行政にたかる市民に嫌気がさす。受給者を抑制するべく、厳しく対応する最中、民生委員からの申し立てで生活保護を申請してきていた西田肇の母親が凍死する。その後、トラックに後ろから煽られ、殺されそうになった友則は西田の仕業とみて、懐柔しようとする。 久保史恵は高校3年。田舎のゆめのから出て、東京の大学に進学することが目標。予備校の帰り、史恵は男に襲われ、拉致される。攫ったのは、引き篭もりの男。暴行はされなかったものの、離れに住む男のことを男の両親は見て見ぬふりをするため、解放の望みはない。泣き疲れた史恵は、男を刺激しないように暮らすうち、解放されてからの生活を怖れるようになっていく。 加藤裕也は老人宅に漏電遮断器を売りつける詐欺グループ向田電気保安センターで働く。暴走族OB亀山を社長とする保安センター。加藤の先輩柴田は、亀山の不条理な評価に憤って、はずみで亀山を殺してしまい、加藤に相談を持ちかける。 堀部妙子は「ドリームタウン」で働く保安員だった。新興宗教「沙修会」に属する妙子は万引き犯の女性、三木由香里が競合する宗教団体万心教の信者であることを知ると、万引きを見逃すかわりに沙修会へ引き抜いた。しかし、これに反発した万心教は妙子に罠をしかけ、誤認逮捕の実績を妙子に作らせた挙句、失職に追い込む。失職した妙子だったが、兄のもとに身を寄せる母親への兄嫁の仕打ちに憤り、これを自宅に引き取ってしまう。 市会議員山本順一は市民団体の抗議に頭を痛めていた。産廃処理施設建設計画に関与していることがばれたのだ。加えて、利権の匂いをかぎつけた元市議藤原は市民団体を利用して、山本に利権の分け前をねらって圧力をかける。産廃業者薮田敬太の弟幸次は、とうとう市民団体のリーダー坂上郁子の拉致に及ぶ。事件への係わりを避けようとする順一だったが、逆に幸次を刺激する結果となり、郁子は射殺されてしまう。 生活保護、母子家庭、ネグレクト、引きこもり、家庭内暴力、介護、不条理犯罪、カルト等々、世相を映し出すあらゆる装置が、現代社会のどうにもならなさを描き出すのに一役買っている。恵まれてるとは言いがたい人々の群像劇にしたことで、地方都市に生きるとはどういうことなのかをより立体的に浮かび上がらせた。 5人の運命が一気に絡み合った刹那、あっと驚く椿事が。雪に閉ざされた街「ゆめの」を象徴するように、話自体は重く、暗い。

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