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太陽の棘
原田 マハ
2014年4月30日
文藝春秋
1,540円(税込)
小説・エッセイ
私は、出会ってしまった。誇り高き画家たちと。太陽の、息子たちとー。終戦直後の沖縄。ひとりの青年米軍医が迷い込んだのは、光に満ちた若き画家たちの「美術の楽園」だった。奇跡の邂逅がもたらす、二枚の肖像画を巡る感動の物語。
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(無題)
太陽に棘がありましょうか。夏場の沖縄で強い陽射しが「肌を刺す」との表現はあっても、基本的に太陽は人や自然には恵みをもたらすもので、害をなすものではありません。太陽には隅々まで照らす明かりのような役割があります。それと同じように人間の内側に潜む闇までも照射して覆われた心のひだを見抜く画家の視線を太陽になぞらえているんですね。それでは画家の視線に何故棘があるのでしょうか。それは、この小説の舞台が終戦直後の沖縄であることと密接な関係があります。沖縄出身の画家・ヒガが向けたトゲトゲしい視線の先には琉球米軍政府の軍属精神科医・エドがいました。そこには我が故郷を焦土とされ、琉球王国の誇り高い民族が戦争の名の下に日本人として惨殺されたア事へのメリカと日本への二重の憤りが渦巻いていました。 この小説は、アメリカ軍の軍医であったスタンレーさんの実話に基づいています。彼は1947年に沖縄に派遣されました。首里の丘に「ニシムイ美術村」という村があって、スタンレーさんが、そこのアーティストと巡り会って、彼らの作品をサンフランシスコに持って帰ったという話です。本作では米軍軍医と画家との心の交流が描かれます。また、戦後間もない沖縄が舞台となっている本作は、友情以外にも沖縄の人々の苦難も大きなモチーフとなっています。 本作の舞台は既に触れたように、沖縄です。しかし、原田マハの他の作品のように南の島の旅情はありません。そこにあるのは、沖縄の大地、まぶしく晴れた空、果てしなく広がる海、草原を吹きくる清々しい風、この世に生まれたすべての命に降り注ぐ太陽の光です。沖縄の画家たちはそれをキャンバスに写しました。一人を除いて。天才ゆえに狂気と紙一重でこちら側にとどまるヒガが描くのは、戦争で失われた命であり、無念の思いでした。彼は自分が描きたい絵しか描きませんでした。他の画家は生活のために、売るための絵を描きます。その事を指摘した本作の主人公エドは、芸術村のリーダー・タイラの心の中の地雷を踏んでしまうのでした。こうして感情的な衝突を経て2人の交流は深まりを見せることになります。二人の友情はエドの肖像画を仲立ちにして強くなりました。 本書で美術は国籍、性別、家族の壁をいとも簡単に突破することを描き出しています。アメリカ占領下の苦しい時代に沖縄の表現者たちは誰より強い生命力で生き抜きました。人間そのものの光と影を小説という表現の中に、絵画をモチーフに読者の心の奥深いところまで豊かに満たしてくれる作品です。絵画作品に造詣の深い著者ならではです。 最後に「ニシムイ美術村」のリーダー・ヒガにはモデルがいますので、紹介しておきますね。この本の表紙の絵は、軍医スタンレー・スタインバーグ氏の肖像画です。この絵を描いたのが玉那覇正吉で、裏表紙には氏の「自画像」があしらわれています。
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