老いの入舞い 麹町常楽庵月並の記

松井 今朝子

2014年6月12日

文藝春秋

1,650円(税込)

小説・エッセイ

【直木賞作家・松井今朝子の新感覚捕物帳スタート!】 北町奉行所の定町廻り新人同心・間宮仁八郎が、上役から命じられたのは、麹町の平河天神社の近くにある「常楽庵」なる庵を月に一、二度立ち寄ること。詳しい理由は聞かされぬものの、庵主は元大奥の女中でかなりの要職に就き、一筋縄ではいかない人物らしい。おそるおそる地元の御用聞きの文六と常楽庵を訪れた仁八郎だったが、かつて大奥で「滝山様」と呼ばれ、現在は比丘尼姿となっている年齢不詳の庵主の志乃は、案外に仁八郎を気に入ってくれた。しかし、個性的な女中たちの鷹揚な態度や行儀見習いの若い町娘たちのかしましさに居心地悪く、仁八郎自身はなるべく関わりあいになるのはよそうと決めた矢先、常楽庵に出入りしていた祝言間近の娘・ちせが「巳待ち」の夜に行方不明に。事件解決のため奔走する仁八郎だが、庵主が何か事情を知る模様でーー(『巳待ちの春』)!? ひとつめの事件に辟易した仁八郎だが、麹町界隈の見回りを受け持ってから、何か事が起きるたびに常楽庵が関わってくる。不審火で父を亡くしたと訴える娘・りつは常楽庵に行儀見習いに通っており(『怪火の始末』)、ある死骸を発見したのは常楽庵の女中・ゆい(『母親気質』)。挙句、奉公先から戻らなかった娘の水死体と赤坂田町の相対死となった男女の事件の真相を探るべく常楽庵の関係者たちはとんでもない行動に出て……(『老いの入舞』)。 知恵も胆力も底知れぬ元大奥の隠居と、若気ばかりはやるひよっこ同心の丁々発止のやりとりも楽しい謎解きは、新しい江戸の名コンビの誕生を予感させます。「入り舞い」とは舞い手が退場する寸前にもう一度舞台の真ん中に引き返して華やかに舞って見せるもの。それゆえ年寄りが最後に花を咲かせる姿は「老いの入舞い」と呼ばれるが、志乃の活躍は、まだまだ続きそうです。

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(無題)

starstarstar 3.0 2020年11月28日

江戸八百八町の民政全般を担っていたのが北と南の両町奉行所である。その守備範囲は司法・行政・治安維持にまで至る。スタッフは与力が南北奉行所に25名ずつ、その配下となる同心は100名ずついた。50万人の町人の人口に比べると、南北合わせて250人程度という非常に少ない人数だから多忙を極めることになる。ところで、町人になじみが深かったのは定町廻り同心である。彼らは決められた地区を担当し、巡回・治安維持にあたった。着流しに巻羽織と言えば『粋』そのものであった。裾乱れも気にせずに大股で街中を闊歩する姿は畏敬と憧れの的であった。本編の主人公・間宮仁八郎は『見習』が取れたばかりの新米定町廻り同心である。担当地域は半蔵門から四谷見附までの麹町界隈である。 さて、主人公・間宮仁八郎が新米同心であれば、年齢は20歳代前半となろう。にもかかわらず『老いの入舞い』とは一体どういうことであろうか。実はもう一人、老いに相応しい影の主役がいたのである。かつて大奥で「滝山様」と呼ばれ、現在は出家姿となって市井に暮らす年齢不詳の女性・志乃である。この女性が麹町に隠棲の庵を結んでいたのである。奉行に指示されてこの庵に出入りするようになった仁八郎。2人の身辺で難件が多発する。かくして、正義感と行動力の仁八郎、知謀と人脈の志乃、凸凹コンビの誕生である。

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