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覗くモーテル 観察日誌
ゲイ・タリーズ / 白石 朗
2017年1月30日
文藝春秋
1,947円(税込)
小説・エッセイ / 人文・思想・社会
一九八〇年のはじめ、著者のもとに一人の男から奇妙な手紙が届く。男の名はジェラルド・フース。コロラド州デンヴァーでモーテルを経営しており、複数の部屋の天井に自ら通風孔と見せかけた穴を開け、秘かに利用者たちの姿を観察して日記にまとめていると言う。男を訪ねた著者が屋根裏へと案内され、光の洩れる穴から目撃したのは、全裸の魅力的なカップルがベッドでオーラルセックスにはげむ姿だったー。ヴェトナム戦争で傷ついた兵士とその妻の行為から、不倫や同性愛、グループセックス、さらには麻薬取り引きの絡んだ殺人事件まで、米ノンフィクションを牽引してきた著者と“覗き魔”、その三十年の記録。
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(無題)
覗きほど卑しい行為はない。人はみなが皆、他人の視線を避けて性行為をする。性行為の最中の2人に気づかれずにその行為を覗き見ようというのだから、後ろめたさを拭い去ることはできない。人間以外の動物が性行為を見られる事を嫌うと言うことは聞いたことがない。人はなぜ見られる事を避けるのだろうか。羞恥心からであろうか。人間は他の動物に比べて極めて社会的な存在である。であるから、性行為を見られることに羞恥心を抱くのは当然のこととも考えられる。私の直感では、どうも他に要因がありそうな気がする。それは自己防衛本能が働いた結果では無いかと推測するのだ。つまり、人がセックスをしている時ほど無防備な態勢はない。そんな時に他の動物に襲われたとしたら、ひとたまりもない。それは容易に想像がつく。つまり、そんな事態を避けるために、羞恥心が働くのではないか、と思うのである。 にもかかわらず、人は何故他人の性行為を見たがるのであろうか。この答えは簡単である。その方が性的興奮が高まるからである。覗きという卑しい行為が性的興奮を高めるというのだから、人とは何とも厄介な存在だ。 ところで、我が国には古くからこんな言葉がある。「一盗二卑三妾四妓五妻」。性的興奮の度合いは、対象ごとにランク付けするとこうなるというのだ。無論これは男の眼からみたものだから、すこしばかり女性を見下したニュアンスが含まれようか。しかし、事は1人では出来ない。必ず相手がいるのだから、男と女、どっちもどっちということになろうか。いずれにしてもこれらは、人間の性は単なる肉体的接触に留まらず、脳による働きが大きい証左であろう。 さて、本書である。一言で言えば天井裏に自分だけの覗き部屋を作ったモーテル経営者の30年間にわたる観察日記である。仮に読者が劣情を高める刺激を本書に求めたとしたら、その希望は間違いなく裏切られるので、読み始める前にその覚悟だけはしておいた方が無難である。
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